ロゴユメ

恋人候補の名を呼ぶ

湖 掌編小説

好きな人の名前、恋しい人の名前。

それを口頭で反芻するとなんだか胸中が暖かくなる。

内心のモヤモヤもなくなって、その人のことだけを考えてしまう。

一昔前は好きな人の画像を待ち受けにすることでその人と結ばれるってお呪いがあったのだけれど、今ではとても虚しい気持ちになるだけでメリットがないと囁かれるようになってから私もやっていない。

それに待ち受けにしたときの画像の中の彼と目が合って何だか恥ずかしかったからやめたというのもある。

でも結構な頻度で彼の顔、声が脳内で構築される。

やっぱり私あの人のことが好きなんだと実感する。

だってその人のことを考えているだけで心が躍る、胸中が熱くなるんだもの。

今日もまた私は片想いの子の名前を反芻する。

「何度呼んでも飽きないなぁ…悠人くん。」

その場に一人だと思っていたし、少しばかりだらしない顔をしてしまっていただろうか。

後ろから最も多く聞いた声音が響いた。

「俺の名前をそんなに呼んで何しているんだ?何かのお呪いか?」

「あ、ああ。」

嗚呼、なんでここぞというときに言い訳の一つや二つが出てこないのだろうか。

口は開いているが、言葉が出てこない。

重い口を魚のようにパクパクさせるばかりだ。

答えない私を気に求めることなく悠人は言葉を紡いだ。

「何か聞いちゃいけないことを聞いちゃったかな。もしそうならごめん。」

「違うの。」

声を喉から絞り出す。

やっとのことで言葉を発することができた。

「私悠人くんのこと好きで、様々な呪いを試していたんだ。本気で結ばれたいと思っていたからさ。悠人くんはこんな私のこと嫌い?」

正直自信なんてなかった。

ルックスは凡人レベルだし、特技もない。

料理はレトルトを温めるくらいしかできない。

側から見れば魅力のない女だ。

でも彼は…。

「好きって言われたのは初めてだ。純粋に嬉しいし、恋人になってと言われれば少し時間を貰うと思う。だって俺聖菜さんのこと名前くらいしか知らないから。でも知った後はきっとOKすると思うよ。」

「根拠は何かあるの?」

私の問いに彼は左右に首を振った。

「何もないけれど、僕たちはきっといつか出会う運命だったんだよ。」

嗚呼この人は引き寄せの法則を信じるタイプなんだ。

でもそういう、なるようにしかならないという考え方は嫌いじゃない。

寧ろ好きだ。

「じゃぁ私の返事はOKということでいいの?」

その問いに答えず赤面した彼は、踵を返して「じゃまた明日」と言って廊下を歩いて行った。

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