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月光と狼

狼 掌編小説

月のない日には毎度の如く救いを求めている。

月光を恐るのは狼へと変幻するためだ。

母の血を受け継ぎ、今がある。

決して望んだ結果ではない。

一度たりとも望んだことはない。

生まれながらにずっと従順に生きてきたと思う。

悪意を働いたことはない、純粋な心の持ち主だと自負している。

神様が本当にいたとすれば、こんな不便な体を授けた理由を問いたい。

普段は夜間は外出することは許されず唯一出ることができるのは新月の時のみだ。

月光を浴びると何故狼になってしまうのか、科学的には証明されていないそうだ。

そもそも解明するのは普通の人間であって、そう易々と狼に変幻する者が、その者たちの前に姿を現し、身を差し出すとも考えづらい。

よってまことしやかに、童話として月光により狼に姿を変える原理が提唱されている。

子供の頃はその手の情報を鵜呑みにしては普通の人間に戻ることを試みたがやはり改善の様子は認められなかった。

あれから月日は流れ、新月の日以外の夜間は大人になった今でも暗示のように避けている。

そんな俺にも彼女ができた時期はあった。

しかし夜間にデートに誘われることが大体で、真実を隠蔽した一心だった俺はデートの誘いを断り続けた。

そして彼女に言い渡された言葉は、つれない、ノリが悪いだとか、無責任な人だとか色々だ。

違う。

君のことをそんな雑に扱おうなんて思ってない。

そう告げても無論信じてもらえず終いだった。

その経験もあって思い切って夜のデートに出向いたことがあった。

満月の夜、俺は本当の姿をさらけ出した。

浮き出た口、ギザギザの歯、頭に出た三角の耳。

月光に照らされ、風にさらされ、立髪はふわふわなびいていた。

俺の変幻した顔を見て、皆悲鳴をあげてその場を立ち去るばかりだった。

生まれつきのコンプレックスだった。

どうして化け物を見るような異質なものを見るような顔で僕を見るんだ。

変幻前のルックスはみんな口を揃えてカッコいいと言ってくれた。

ただ狼と少し普通の人と違うだけで何だというんだ。

何度も同じ結末を歩んだ俺はどこか虚しい気持ちになった。

自分のコンプレックスのせいもあって、もう結婚を諦めようかと思った。

次だ。

次、同じ結末に陥ったらもう一人で生きていこう。

一生治らない世に受け入れられないものを背負って。

「まぁ他人にはこんな俺の惨めな気持ちはわからないだろう。」

「そんなことないよ。私はね強いメンタルのあなたの敬意を示すよ?」

背後からの声に振り向くと、俺と頭二つほど小さい女性が立っていた。

さっきまでのやりとりを見られていたのかと思うと、次第に辱めを受けた気分になる。

「私は狼さんでも気にしないよ。何度も断られてたけど私にとっては嬉しかった。強そうな人が私のものになるんだって確信できたから。」

そんなことを言われたことは初めてだった。

俺は彼女のことを幸せにできるだろうか。

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