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無名の守護者

フクロウ 掌編小説

水泳部、通称水部の私こと佐々木優菜は一人娘の父子家庭で生活を送っている。

私は幼少の頃からよく一人で誰もいない場所に向かって話をかける子だったという。

私としては対人で話をしているつもりだったのだが、周りからすればそれは異質に見て取れたようだ。

母はその時家庭に霊を寄せ付けるものが自分の娘だと知り、酷く私を毛嫌いし、自分の元から遠ざけようとした。

父が止めに入って結果、私は父に引き取られ離婚した。

霊は私と共に姿形は成長し、高校生の今でも帰るといつも出迎えてくれる。

毎日父の帰りが遅く部活帰りでも部屋に明かりはなかった。

休日に父は家には居るものの何もないところで会話を繰り広げていても母のように咎めることはなかった。

それよりも

「楽しそうで何よりだ。」

そう一言残すだけだったのだ。

自分には見えていないのに、自分の娘を任せるほどの信頼を果たして寄せて良いのか。

私が見えない親ならば母のように守護という選択したかもしれない。

そうではないことに私は謝辞の言葉が溢れるばかりだ。

霊とは言っても、一般にいう霊とは異なることくらいわかっていた。

彼、彼女どちらで呼ぶのが適切であるのか定かではないが、人のようにあの人は成長している。

だから呪縛霊とかそれらの悪霊の類ではないことは確かなのだ。

善良な霊、いや霊ではないのかもしれない。

きっと妖精か何かだろうと私は思う。

OLになった私は一人暮らしを始めたが、やはりあの人はどこにでもついてきた。

聞き上手ではあるが口数は前よりも少なくなっていた。

そう言えばと、私は過去の記憶の糸を手繰り寄せるように言葉を紡ぎ、質問をした。

「ずっと聞いてなかったけれど、あなたは何者なの?妖精さんか何か?」

首を左右に振り私の質疑を否定すると、予想を遥かに上回る返答があった。

「私はね不可能を可能にするためにあなたのそばにいるんだよ。」

一体何を言っているのかわからなかった。

内容を汲み取れず、眉間に皺を寄せると、目前の人物は補足を入れた。

「君は、僕が選んだ人。君は僕に選ばれた人。だからね、きみが母さんに殺されずに済んだのも、きみが水泳部で部長として人間関係で上手くいっているのも、僕のおかげなんだ。唯一想定外だったとすれば、きみの父さんに僕のことが視認されているってことだけどね。」

父にもこの子が見えていた?

それに私に降りかかる問題を退いていたのが名も知らない、性別も住まいも不明な目前の子…。

にわかに信じがたいが、それが真実なのなら…。

「私を選んでくれてありがとう。救ってくれてありがとう。」

そう告げるとあの子は初めて微笑んで見せてくれた。

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