ロゴユメ

花の嘘

建物 掌編小説

取引をしよう。

人生の節目で躓いていた私は花と名乗る人物にそう告げられた。

取引っていったい私は何を差し出し、そして何を得るのだろうか。私は問うた。

すると彼女は不敵な笑みを浮かべてこう呟いた。

「あなたの命の3分の1程度差し出す代わりに、人生の全てを有意義に過ごさせてあげるわ。」

彼女は死神か何かの類だろうか。

命を差し出すだなんて、普通の取引ではあり得ない。

そもそも私が後何年生きらるのかわかったものではない。

普通の人間だもの。

知らなくて当然なのだ。

少し自分の今後について思案してみた。

死神が私に選択という行動をもって助言しているのだとしたら、それに背けば私の人生は灰色のままで終わるのだろうか。

今までを顧みれば、委員会は美化委員、委員長等の役員には所属していない。

部活にも入っていない、帰宅部だ。

この通り、誇れるほどの功績をあげるチャンスさえ掴みに行ったことがないのだ。

クラスの中でも影的存在で、本当にクソみたいな人生だなって思う。

でも今はこれでいいと思っているのだ。

後先のことはその時になってから考えればいい。

そういった心持ちで今まで来た。

多分今後もそうするだろう。

だが何か、目前の人物は私という生命に対する分岐点なのだろうか。

「わかったわ、命の代わりに晴れやかな人生を頂戴。」

どうせ生きるなら楽しいほうがいい。

どこまで続くのかわからないけれど、有意義な人生を今まで以上に楽しい人生を送ってやろう。

「あなたの残りの人生は残り20年です。」

そう言い渡されてから私は毎日本気で生きた。

高2になって、生徒会長に立候補したし、部活は生徒会の活動に差し支えのない放送部に所属した。

部活と生徒会の両方に所属している人はなかなかいなかったから、自分が周りの人より少し先にいるような錯覚を覚えた。

私は娘に1つ嘘をついている。

フリーターだから時間に制約が少ないからと友人に懇願して死神っぽいコスプレをさせて、娘に助言するように頼んできた。

帰宅した娘の目はどこか必死で、いつもの平和ボケしていた頃とは異なる何か強い意志を持った顔だ。

もしかして結構効力があったようだ。

何をするにも魂の抜けたような娘だったが、その日から部活に入ると言い出した。

私は心底嬉しく思った。

19年の月日が過ぎて、仕事の長期休暇を理由に娘が実家に帰ってきた。

例年だと帰ってくることはないのだけれど、今回だけ大事な話があると電話があった後、帰ってきた。

私は娘の帰郷を夫と歓迎した。

前に、親元を旅立つ前の娘とは違い、少し強張った顔をして深刻そうに娘は言葉を紡いだ。

「私後1年しか生きられないの。高校時代にそれを告げられてたけど、なんだか言いづらくて…。」

それを聞くなり私は失笑した。

真実を娘に告げると安堵とも怒りとも取れる言葉が優しく響いた。

「母さんの馬鹿。本気にしてたんだからね。」

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