ロゴユメ

手を握り希う

屋根 掌編小説

もしあのとき私が彼の手を引いていたら助かったのだろうか。

今となってはもう過ぎたことで、私があの夜偶然彼の最期を見たことは誰も知り得ぬ情報だ。

でも自分で生命を絶ったのだ。

きっと死にたがりだったに違いない。

ある夢を見るようになるまではずっとそう思っていた。

事件から49日が経過し、その翌日に私は夢を見た。

夢の中で生前の容姿の彼は雄太という。

雄太は何か私に語りかけるように、それも必死といった表情で言葉をぶつけていたが、私の耳には濁った音しか入ってこない。

彼が何を伝えたかったのか、そしてなぜ私がこんな夢を見せられなかればならないのだろうか。

疑問が渦巻いていた。

それから一週間が経過したところでやっと音が鮮明に聞こえるようになってきた。

そしてやはり雄太は夢の中で私に語りかけてきた。

「あの日の夜、岩陰から僕をのぞいていたのは綾香、キミだよね。」

その一言が届くなり心臓が掴まれたかのようにキュッと収縮し、呼吸が荒くなる。

雄太はそんな私を気にも留めないといった様子で話を続けていった。

どうして私の存在を知っていたのだろうか。

あの時は確かに前方しか目がいってなかったはずだ。

雄太が後ろを一瞥することもなかった。

ただ前だけを見て、岬の最奥、崖の辺りまで真っ直ぐ進んでいたはずだった。

でも次の発言で私は意外性から思わず言葉を漏らした。

「あのときの俺はさ、何者かに憑依されていたんだ。それのせいで半分意識のあるままこの世を後にしたんだ。」

そうだったのか。

霊的存在はフィクションの中だけと思っていたから、彼の言葉に少し抵抗を感じた。

でも…。

「死んだ後、キミが俺の近くにいたのを知って今はとりついているわけなんだ。」

冗談じゃない、毎度不思議な夢は雄太が原因なら早く解放して欲しいと念じるも、夢の世界では通じず、私は無言のままだった。

いったいどうすれば良いのだろうか。

そのヒントは、いや答えは次に彼が喋ってくれた。

「本当は俺はまだ死にたくなかったんだ。だからあの日の俺をなんとかして止めて欲しいんだ。」

そこで夢は途切れ、目を覚ますとあの岬に、それもこちらに背を向けた雄太を前にして立っていた。

雄太はどんどんゆっくりと前に歩みを進めてゆく。

このままでは雄太が落ちてしまう。

咄嗟に私は雄太の左手を両手で握ると助かってくれと希って後方へ引いた。

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