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一夜漬け網

一夜漬け 掌編小説

人は時として思い出を大切にするものだ、だからこそ学生時代のひと時も確実に楽しみたいもので、勉学だけに時間を費やしていられないという考えも半分あるが、ある程度、いわゆる中の上くらいの成績をとっておかなければこの先お先真っ暗なのは目に見えている。

最下層付近だともはや崖っぷちというか、未来をやくそくされない人々の生きざまが映るというイメージで、同類にはなりたくなかった。

できることなら上へ。

そこで僕が選んだ方法は特殊な網を使った一夜漬けだ。

網で囲っている範囲だけが、空間がねじれて時間がかなり緩やかに流れるようになる。

つまり、周りから見れば自分は加速世界にいるも同然ということになるのだ。

気を付けるべきことは、その網内部と外部の人とでコミュニケーションをとろうとしないことだ。

おそらく音にならない音で想いを伝えていることになるからだ。

それだけ時間は跳躍され、外部の人間からしたら何を言っているのかがわからなくなる。

僕がよく一夜漬けをすることを妹は知っているので、コーヒーをおとして持ってきてくれるのだが、そのやさしさにありがたみと少しの絶望感を抱いていた。

網を抜け出したとき、抜け出さなければどれだけの時間が確保できていたかということを無意識のうちに考えてしまうのだ。

妹にはお礼を言っておいた。

コーヒーを置いて特に何も語ることなく戻る妹はある意味天使のように思えた。

兄への気遣いができるよくできた妹だという認識をしたためだ。

網の中で勉強をして、そのまま机に突っ伏して寝て、また起きて勉強をしての繰り返し。

普通だったら睡眠時間おそらく7時間ほどとってすっきりしていた僕のやり方だと到底一夜漬けなんて無理なんだろうが、この網のおかげで時間を圧縮し、体にも無理をさせることなく勉強に励むことができる。

老けるのが早くなるのかと言われればそれまでだが、寝ている分その所は抑制されると考えると気持ち的に楽になっていった。

おそらく一週間くらいつまり7回寝て勉強を繰り返したところで、明日の勉強への対策はばっちりといった感じになった。

時刻は21時を示しており、寝るには最適の時間だったので、僕は網から出て床に着くことにした。

午前6時僕は起床し、その他もろもろのことを済ませて学校でテストを迎えた。

結果的にはだいぶ調子がよく、すらすらと問題を解くことができた。

網のことを知られたくはないので、僕が一夜漬けをしているのは誰に対しても内緒だが。

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