ロゴユメ

私の名を呼んで

迷子 掌編小説

それは幼少の頃の話だ。

私はバーゲンの関係で親に連れられて大きなショッピングモールに足を運んでいた。

近場のスーパーにはない品々が配置されており、己の好奇心をくすぐる。

私は目に飛び込んでくる様々なものに目移りしていた。

そしていつの間にか親と逸れていた。

それに気がついたのは自分が物を見た時の率直な感想を親に伝達しようとしたときだった。

母はどこに行ってしまったのだろう。

今頃私を探しているだろうか。

このまま母に会えなかったら家に帰れない。

ずっとここで暮らすことになるのだろう。

それは絶対に嫌だった。

途端に不安になり、背に嫌な汗をかいた。

店内を走り回っては母を探した。

迷子センターの存在を知らなかった私はひたすらに目視で母の姿を追おうとしていた。

だがどこにも姿はない。

思っている以上に人が多く、広大なショッピングモールでただ1人を探すことは至難の業であるということをその時知った。

そのときだった。

背後から右肩を叩かれて、後ろを振り向いた。

見知らぬ少女がそこに立っていた。

「キミ迷子でしょ?」

私は彼女の言葉にコクリと頷くと、そのまま続けて言葉が流れ込んでくる。

「私はね探し物を見つけ出すのが得意なの。あ、名前言ってなかったね。私は川長結っていうの。」

「本当に私の探しているものを見つけ出すことができるの?」

その問いに勿論と胸を張る結という少女。

年齢は私より上だろうか。

背丈も頭ひとつ分大きい。

「目を瞑って。」

「え?」

「いいから言われた通りにして。早く。」

少し強引に制されて私は目を瞑った。

そしていいよと言われて目を開けたとき、目前には母の姿があった。

「ゆみ、どこに行ってたの。探したのよ。」

そういうと母は両手を私の背後に潜らせ、少し強く抱きとめた。

あのお姉ちゃんは…?

あたりを見回すとあの少女の姿はなかった。

お礼を言いそびれてしまったなと少し内面がもやもやするも、母の元に戻れたことによる安心感の方が勝っていた。

落ち着きを取り戻したところで、自分の手に何かが握られているのかの感触が伝う。

手を開くとそこには1枚の紙がくしゃくしゃになっていた。

広げてみると、また何か困ったことがあったら私の名前を呼んでと書かれていた。

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