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霊媒師の娘

親子 掌編小説

少々おっちょこちょいな少女を俺は知っている。

その少女は霊媒師の一人娘で、俺より一つ下の学年の子だ。

関わるきっかけになったのはふとした時に学校の階段で自分の足に足を引っ掛けて階下へ転げ落ちそうになったところを偶然その場に居合わせた俺が助けたことによる。

実に自然な流れでその一件が終わったし、咄嗟に彼女の身体を抱き寄せてしまったことを咎められることもなかった。

少女が純粋だったからだろうか。

普通に汚れているのかのような言い方になってしまったが、俺の思う普通だと、動機はどうであれ女の子へのボディータッチは憚られるべき、常識の外れた行為だと認識している。

この考えに至るのも自分が童貞だからなのか、それとも世間一般的にそうなのかは明確な判断がつかないが、感覚でなんとなくやってはいけない行為だと思っていたから、目前の少女に指摘を受けないか彼女を抱きとめてから冷や冷やして背に変な汗をかいていた。

案の定、怒号が来るかと思ったがむしろお礼を一言いただいてそしてそこからなぜか友達になれた。

孤高を貫いてきた俺にとって、高校での女友達は初めてだ。

だから心底驚かされた。

「本当に俺なんかと友達になっていいのか?」

俺の問いに彼女はコクリと頷いた。

どうやら友人としての仲は成立したようだった。

目を追うごとに彼女との距離は一歩、また一歩と近づき、彼女の父が霊媒師であることを知った。

今日の彼女は目を泳がせており、手を握ったり開いたりを繰り返していた。

どうやら何かの要因で落ち着きがないようだ。

「何か気になることでもあるのか?」

彼女と目が合うと彼女は赤面し、左下へと目線を逸らして辱めを受けているかのように弱々しく、震えた声量のない声で言った。

「父さんに最近好きな子ができたでしょ。波動の流れでわかるんだよって言われて内心複雑になっちゃって。」

「父さん霊媒師だっけ。霊や言霊とかに詳しくないからよくわからないけれど、父さんにはその…波動で心情がわかっちゃうんだ。」

言葉を発することはしなかったが、うんうんと頷く。

唇がふるふると震えている。

人のことを考えていることがわかると便利かもしれないけれど、共感を飛び越えて恐怖が己を支配する方が先かもしれない。

彼女は父に今恐怖しているのかもしれない。

「大丈夫。俺にはお前の気持ちはわからない。口で言ってくれた範囲でしか理解できないさ。」

その言葉に安堵したのか、彼女の唇の震えは停止した。

「ところでさ、好きな奴って誰なのさ。」

彼女は顔を上げ、俺の目を凝視すると答えた。

「水川勇気くんだよ。」

俺の名前じゃなかった。

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