公園のベンチに座る香苗は、秋の風に揺れる木々を見つめていた。
枯れ葉が舞い上がり、空に散っていく様子は、まるで彼女の心の中の思い出が浮かんでは消えていくかのようだった。
彼女の心には、過去の記憶が色濃く残っている。
思わず口をついて出た言葉が、誰もいない公園に響いた。
「…あの頃はよかったなぁ…竜太、覚えてる？」
その瞬間、静寂を破るように、背後から懐かしい声が聞こえた。
「もちろん覚えてるさ、香苗。あの日のこと、忘れるわけないだろ？」
驚いて振り向くと、そこには竜太が立っていた。
彼の顔には昔と変わらぬ笑顔があったが、その目には少しだけ大人びた影が宿っていた。
彼の存在は、香苗にとって暖かい陽射しのようだった。
「竜太…どうしてここに？いつも急に現れるんだから…」
「この公園に来ると、必ず君がいる気がしてさ。昔みたいにね。懐かしくて、足が勝手に向かってしまったんだよ。」
二人は同じベンチに腰を下ろした。
周りの景色は変わってしまったかもしれないが、心の中にある絆は変わらない。
香苗は、竜太との思い出が一気に蘇るのを感じていた。
「覚えてる？ここでよく一緒に遊んだよね。あの時は、未来なんて何も考えずに、ただその日が楽しいだけだった。」
「うん。あの日々は本当に特別だった。でも…あの頃の僕たちは、今の僕たちには想像もできない未来を歩んでたんだな。」
竜太の言葉に、香苗は少し考え込んだ。
彼らは昔、家族の事情や仕事の都合で、離れ離れになった。
新しい道を選び、それぞれの人生を歩んできたが、この公園だけは彼らを繋ぎ止める場所だった。
「今も、時々思い出すんだ。あの日々が戻ってくることはないんだろうけど…でも、こうしてあなたとここで再会する度に、少しだけ救われる気がする。」
「僕もだよ、香苗。あの頃の僕は、ただ無鉄砲で、自分が何を望んでいるのかもわからなかった。けど、君と過ごした時間だけは、本物だった。」
二人はしばらくの間、静かに風景を眺めた。
秋の夕陽が少しずつ沈んでいく中で、無言のまま心を通わせていた。
香苗は、心の中で何かが動き出すのを感じる。
「…竜太、これからどうするの？」
「また、この公園に来るよ。君がいる限り、僕もここに来る。過去の思い出だけじゃなくて、今の僕たちの時間を少しずつ積み重ねていきたい。」
「…そうだね。今の時間も大事だよね。」
香苗は微笑み、竜太も静かに頷く。
秋の風が、二人の間を吹き抜け、彼らの心を少しだけ温かく包み込んだ。
「香苗、これからもっと話そう。あの頃のことだけじゃなくて、今の僕たちのこと。」
「うん、今の私たちのことも。最近、仕事が忙しくて、なかなか時間が取れなくて…」
「そうだよね。大人になると、いろんなことに縛られる。でも、こうして再会することで、少しでも昔の自分を思い出せる気がする。」
「私も。竜太と話すと、心が軽くなる。」
香苗の言葉に、竜太は微笑んだ。
彼らの心の距離が、少しずつ縮まり始めているのを感じた。
公園の木々が揺れ、乾いた葉が踊り、秋の夕暮れが二人を優しく包み込む。
「香苗、今度はどんな話をしようか？好きだった夢や、将来のこと、いろんなことを話したいな。」
「そうだね。私たちの夢、まだまだいっぱいあるはずだもん。」
「それを一緒に追いかけることができたら、素敵だと思わない？」
香苗は思わず頷いた。
彼女の中で、希望の光が灯り始めていた。
過去の思い出だけではなく、今の自分たちの未来も輝いている可能性がある。
二人は同じ夢を見ているのかもしれない。
「じゃあ、次はいつここに来る？」
「来週の土曜日はどう？」
「それなら大丈夫！楽しみにしてる。」
「僕もだよ、香苗。」
秋の風が冷たくなり、夕陽が沈む中で、二人はその日を待ち望むように約束を交わした。
心の中の郷愁が、少しずつ形を変えていく。
その瞬間、香苗は確信した。
過去への懐かしさは、今の彼らを支える力になっているのだと。
そして、二人の心の中には、未来への期待が確かに芽生えていた。
公園の静けさと共に、彼らの絆もまた新たな一歩を踏み出そうとしていた。
コメント