ロゴユメ

濡れない手帳

森 掌編小説

土砂降りの日だった。

雨がザーザーと激しく地面を叩く。

そんな中私はビニール傘を片手に、帰路についていた。

歩くたびに地面にたまった水がぴしゃぴしゃと音を立てた。

夏靴で上部は通気性が良くなるように作られていたから、そこから水が入って靴は内部からグショリと濡れた。

毎年の如くこうなる。

デザインがダサいからと長靴を履かないようにしているのだけれど、今日それが裏目に出たようだ。

「最悪。グショグショで心地が悪い。それに冷たい。」

こんな時の近道だと、普段あまり通らない中道へと歩みを進めていった。

斜め上からそれも向かい風だったから、傘を斜め前方へと向けて歩いた。

普段下を向いて歩いていなかったから気づかなかったのか、それとももともとそこにあったのか。

家まであともう少しという道の途中で手帳が落ちていた。

見たところ水がしみている様子はなかったので、拾い上げてみると、その手帳は水滴をはじいていた。

「何これ、いったいどういう仕組みなわけ?」

きっと誰かの落とし物だから交番に届けるのが正解なのだろうけれど、足がびしょ濡れの状態で行くのもどこか気分が悪かったので、いったん家に帰宅することにした。

シャワーを浴びて着替えると、さっき拾った手帳に手をかけて、中身を開いてみた。

「何も書いてないじゃない。新品かなぁー。」

ページをパラパラとめくっていくと、最終ページだけ文字が記入されていた。

手動で書いたのではなく、どう見ても印刷だった。

この手帳に書かれたことはすべて嘘になる。

そう一文で書かれていた。

つまり、私の名前の後にブスと書けば、私は美人になるということね。

「それにしても濡れない手帳ってだけでも十分希少価値が高そうだけれど、手触りはどうやったって、私の肌には紙としか感じないわ。いったいどうなっているのかしら。」

とりあえずものは試しということで佐々木舞はブスと書いてみた。

そして急ぎで鏡を見に行ってみたが、私の顔は特に変化はなかった。

「なんだ、あれはただの悪戯だったのね。ちょっとがっかりかも。」

そのまま文面を残して手帳を閉じると、机に置いて階下に降りて行った。

するとどうだろう、家族みんなが目を見張っているではないか。

「あんたその顔どうしたの?整形?メイク?」

「別にいつもの顔じゃん。」

「それでいつもの顔とか無理があるんですけど。」

どうやらその人が見て美形と感じるような効果らしい。

あれ、でも私が自分の顔を見た時はそのまま・・・。

ああなるほど、私はいつもの自分の顔が可愛いと思っていたからか。

なるほどと納得しつつ、さっきのページの文字を消しゴムで消した。

すると驚かれることはなかった。

私はなかなかいいものを拾ってしまったらしい。

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