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うっかり忘れる夏

妖精 掌編小説

初夏がいつだったかなんて肌感覚では認知できはしなかった。

春よりも温かくなったから、カレンダーで5月になったからだとかそんな理由で夏が来たと定義するが、感覚としては春の延長線上にある。

春の間隔が長いからこそ数字という定まったものがない限り本当は長い夏の存在を人は知らずのうちに忘却してしまう。

人が夏に気づくころにはもう秋が襲来していて、夏の名残のある秋を人は夏と呼び出す。

いつの間にかセミが鳴いている。

夏のセミだか秋のセミだか素人にはわからない。

とにかくセミが鳴いていた。

「なぁ夏っていつ頃から始まるのか知ってるか?」

中学の俺はふと疑問を口にした。

友人の武田は刹那思案して、

「7から8月くらいあたりかな。」

と答えた。

肌感覚的には妥当な意見だった。

だから俺は武田に同調して

「そうだよな。やっぱそのくらいだよな。俺もそう思ってた。」

と返答した。

「カレンダー見てないと日本で言う本来の夏の期間がわからなくなるからな。」

「カレンダーって正しいようで正しくないらしいぜ。」

数値で365日に正しく区切っているあれのどこが不正確であるのか腑に落ちなかったので俺は疑問をそのまま言葉にした。

「不正確ってどういうことだ?」

「一日の本当の時間は23時間57分なんだよ。昔は一日24時間としても13月っている補正する機関があったのだけれど、今じゃそのやり方は廃止されちゃったんだ。だからずれるにずれて、春なのに北海道ではまだ積雪があるなんてことが起こるわけ。」

なるほど、それなら肌感覚で感じている四季はあながち間違ってはいないということか。

「どおりでセミが出てくるのが毎年違うわけだな。」

「まぁそういうことだよ。ずれを補正することが亡くなったら今度は初夏に雪が降ったりするのかもね。」

夏を忘れる理由については謎は解けたけれど、せっかくの四季なんだ。

毎年しっかりと堪能したいよな。

そして

「夏も忘れたらきっと寂しがるよな。」

「その通りだよ。」

帰り道、何となくつぶやいた言葉に反応するように後方から声がした。

踵を返し声の方に向き直ると明らかに人外と言える者がそこに立っていた。

それはもう・・・

「妖精か。」

「そう。私は夏の妖精アクアグリーン。」

夏の妖精・・・。

そもそも妖精の存在自体迷信だと思っていた。

フィクションの中の存在が目前にいるとは、どこか不思議な感覚に陥る。

「いつも夏だよってみんなによびかけてるんだけれど、やっぱりみんなが夏をほとんど認知しないまま秋に入っちゃうんだよ。夏ってそんなに印象が薄いのかな?」

「それはたぶん北国である北海道だからこその現状だと思うな。」

そう、今年は4月に入っても最高気温は5度。

まだ風が冷えていて厚手のジャンパーを着用していないと肌寒いのだ。

「そうなのかな。ほかの地方のことはよくわからないけれど・・・。」

少々不安げな表情をみせる妖精に対して俺は率直な意見を述べた。

「俺は肌感覚で季節がわかるさ。本来より夏を感じる期間が短くなるかもしれないが、必ず毎年夏を感じているさ。」

そういった後の妖精は少しばかり表情が和らいだ感じがした。

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