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私が死んでそして生きた日

おじさん 掌編小説

今日は記念日だ。

なんの記念日かって?

それは私と夫が初めて出会った日。

前世の私は日光の届かない、日中、年中暗黒に満ちた街並みの世界に生きていた。

何不自由なく大人へとなった私は世間で言う常識を知らずに育まれたことを強く悔いた。

社内では陰口や罵声が続いた。

少しくらいのミスをしたっていいじゃないか。

みんなストレス解消に私を使っているんじゃないか。

日々様々な可能性が芽生え、悶々としていた。

すっきりしない。

もう仕事なんて辞めてしまいたい。

できることなら自由になりたい。

「もう一度人生をやり直したいなぁ…。」

私は脳内の言葉を反芻するように呟いた。

そしてそのまま布団に入ることもなくてテーブルに伏して寝てしまった。

朝、目を覚ますと、ベッドの上で寝転がっていた。

重たい頭をゆっくりと起こすと見慣れない風景が広がっていた。

煙草をよく吸っていた屋内は黄ばんだ壁に包まれていたが、目に飛び込んできたのは真っ白い壁だった。

家具の一切ない殺風景だったはずの部屋には、本棚やタンスがあり、その棚にはギッシリと漫画や小説が置かれていた。

「ここって本当に私の部屋なの?」

室内を一望したところで私は悟った。

第二の人生を歩むことになったのだと。

地に足のつく感覚は生々しく、夢ではないことを物語っていた。

そのまま生活して、10年の時が経過し、私は22歳になった。

高卒だった人生とは違う、大卒という新しい世界へと自らの意思で人生を歩んだ。

新卒で第一志望の就職先に入ることができたし、社内恋愛も許可されているという境遇
も手にすることができた。

まさかあの時眠るように死んだ私が、こんな晴れやかな人生を送れるなんて思いもしなかった。

今は夫もいる。

こうなるなら、あんなに辛い人生早く終わらせるべきだったなと切実に思った。

インターネットで検索していたあの時。

薬品の情報を目にした時。

自殺の方法を知ったあの時。

きっと全てが今に繋がっているんだ。

最近になって仲が良くなってきたと思った。

だから私は今までの全てを夫に打ち明けた。

きっと知ってもなお受け入れてくれると確信していたからだ。

別に言わなくてもよかったのかもしれないが、自分の中で悶々とした気分もなるのは嫌だった。

全て曝け出して少しでも楽になりたいと思った。

きっと打ち明けたことは正しかったと今では思う。

私が全てを明かした後、夫から返ってきた言葉は

「君の前世はまるで僕と同じだね。」

だったからだ。

私たち似た者同士が偶然に惹かれ合ったのである。

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掌編小説私色日記
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