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焼き厚紙

おまじない 掌編小説

年に一度、お盆の時期に僕の住む集落では毎年の邪念を払うという意味合いから厚紙に、取り払いたいものを書き込んで燃やすという風習がある。

僕は幼いころは病弱で、この時期に姉がよく僕の病原菌を取り払うことを祈るように厚紙に書き込んでは燃やしていたのをよく覚えている。

その甲斐があってか、高校生にになった僕は一度も病にかかることなく専門学校へと進学した。

今では集落は離れ、そんな風習も忘れるほどの大都会に身を置いていたころに僕のもとに一人の少女が押しかけてくるようになった。

同じマンションに住む隣人で、僕が昔いた集落の隣に位置していたらしく、生活様式や風習が似ているということから仲良くなった。

もともとはごみ捨て場の場所がわからなくて困惑しているところを手助けしたことをきっかけに話すようになったのだが、今では僕の対応が気に入ったらしくよく僕の家に唐突にくることもしばしばあるほどになった。

まぁ大体は前日に連絡を入れてくれるが、僕というとバイトをしているとき以外は基本暇を持て余しているし、無趣味なこともあって彼女と話すのは何より心の支えというか楽しいひと時となっていた。

彼女と話すようになって過去の厚紙を燃やす風習が話題に上がり、僕ははっとした顔をした。

彼女はそのしきたりというか、風習というか、それをいつまでも大切にし有限実行していたことにも驚きだ。

彼女から話を聞かされるまで僕はその風習に関して完全に忘れていたのだから。

僕の病状がよくなり、免疫力がついているのはその風習のおかげなのかは定かではないが、冷静になって考えてみれば単に厚紙に削除したい項目、変えたい、取り消したい現実を描いて炎で燃やしただけで願いが叶うなんてそんな夢のような話があるはずがないと思っていた。

でも彼女は、その風習が僕と彼女を引き寄せた可能性がある、あのおまじないは絶対的な効力を持つから、今年からでも遅くはない、再開すべと提案してきた。

今は7月。

来月になればこのおまじないを使うことができる。

念一度限りのおまじないだが、純粋に僕は彼女が厚紙に何を書いたのかが気になって仕方がなかった。

そのことを問うともったいぶったように彼女はなかなか教えて呉れてはくれなかったが、しつこく問いただすと腹をくくって話してくれた。

私のすべてを許し、正し、包み込んでくれる。

そんな存在だけを残してあとは私とかかわらないでほしい。

そう書いたと彼女は語った。

まるでわがままのようだが、ストレス係数を下げ自分の能力を最大限に引き出す術を熟知しているかのように思えた。

つまり、僕はあの厚紙によって選ばれたのだ。

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