ロゴユメ

色を奪う世界

目 掌編小説

特別想像力に長けていたわけでもないが、小学校高学年あたりから見る夢はリアリティを増していた。

子供の頃に美しいとかきれいだと思っていたものも、大人になった今ではまるで灰色がかったかのように色を失っていた。

やがて子を産み、世界の美しさを再認識したのは子供が5歳になってからだった。

自分の率直な意見を話す。

それが我が子の特徴であり、私が世界の色を知れる術でもあった。

星空を指さして、どんな風に見えるのか聞くと、恒星の光に照らされて星々が白色にそれも美しく輝いていると答えた。

5歳にしては少し知識のある感想を述べるものだと心底感心したのと同時に、私は世界の色を言葉から想像する。

子供が詳細に話してくれたので想像は容易だった。

大人の誰しもが色を失う。

正確には世界が曇って見えるのではないかと思う。

根拠は芸術家の存在による。

彼らは知識の限りもちろん尽くすのだが、現代にあるものを参考として描くのが大半だ。

色も鮮やかに、鮮明に映っているのは確かなはずだった。

私はそんな芸術家のような目を持っていないため、灰色の世界の中で生き続けている。

純粋に美しさがわからなくなっているからどう形容しようとも答えは同じ。

つまり何を見ても同じに見えてしまうのだ。

だから子供に色を聞く。

我が子がいつ色がくすんでしまうのかがわからないから、毎日のように習慣化して聞いている。

ある日天体観測をしに行く途中、我が子が姿を消した。

いつ自分の下から消えたのかもわからないほど自然な神隠しだった。

すぐに焦りながら、背に変な汗をかきながら子供を探した。

近くにはいない。

あたりは暗く、星尾月明かりだけが頼りだった。

あたりが静寂に満ちている中、人の声らしき音が聞こえた。

私は声のした方へと向かっていく。

すると一本の木の前から人が出入りしている姿が目に映った。

急ぎで回りの人の目を盗んで、その入口へと入っていくと、晴天の街へと出た。

そこはどこか不思議で、私にも色が感じ取れた。

「ママ?」

足元を見ると我が子がいた。

私は子を抱き留めるとだっこをして、その場から立ち去ろうとした。

「なぜ大人がこんなところにいる!!」

後方で驚愕に満ちた声がした。

「うちの子がここに迷い込んでしまったみたいで連れ戻しに来たんです。」

「チッ、まぁいい代わりはいくらでもいる。変に秘密を知られても困るしな。早く帰った帰った。」

初老の男に促されるままに私は引き返した。

後になって知ったが、私も一度あの地へ訪れたことがあるらしい。

それの証拠として色を失っているのだという。

あの場所がカラーで満ち溢れていたのは、人の色を吸収して育っているからに他ならないのだそうだ。

だが私には色を抜かれた記憶が存在しないのはなぜだろうか。

詳しいことはわからないが、今後あの山には近づかないようにし、我が子が色彩あふれる世界で育ってほしいと願うばかりだ。

そして確認の意味も兼ねて今日も色を問う。

「ねぇあの木どんな風に見える?」

「青々しい緑色をした葉を茂らせているよ。木々はどれも黒っぽい茶色だね。」

私の質問に我が子は得意げに答えた。

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