登場人物
高原正樹(主人公)
緋色真子(ヒロイン)
同級生A→佐々木孝明
所要時間 約27分 (VOICEPEAK計測)
学校内で
同級生A「ねぇ正樹、まーた休み時間も勉強してるの?そんなに切り詰めてたら楽しい時間なんてないまま、学校生活が終わっちまうぜ?」
正樹「もう十分遊んださ。」
同級生A「中学の頃の話だっけ?好きなことをしてたってことだろう?まぁ別に退学とかそういった概念もないし、ほら、俺たち同じ学校にこうして入学できているんだから、学力レベル的にはそんなに違いはないんじゃないの?」
正樹「入学できたのも奇跡みたいなもんだよ。受験勉強から逃げるようにゲーム三昧で、まともに勉強と向き合おうとしなかった、してこなかったんだ。だからさ、今こそその分のやり直しが必要なんだ。」
同級生A「まぁ気持ちはわからなくもないけれど、そんなんでいいの?正樹って俺と担任以外に話しかけられているところを見たことがないんだけれど・・・」
正樹「確かにそうだな。人付き合いで疲れなくていいかもしれない。」
同級生A「確かに・・・ってそういうことじゃなくて、もっといろんな人とかかわりを持って行った方がいいと思うんだよね。ほら、見える世界も変わってくるよ?だからさ、座ってないで、俺と一緒に図書館にでも・・・」
正樹「興味ないね。僕は3年分のブランクを取り戻すために忙しいから・・・」
同級生A「ここに入学できてる時点でブランクって言い方も何か違うような気がするけれどねえ」
正樹「ここの高校がいくら入学試験があるとはいえ、そこまで偏差値の高い高校でもないだろう?」
同級生A「まぁそうかもしれないけれどさ。」
正樹「それに・・・」
同級生A「それに?」
正樹「それに、何かと底辺の高校でも教科書はほかの高校と変わらないんだ。基礎学力をつけていけば、まだ取り戻す余地はあると思う。」
同級生A「取り戻すって、成績を?」
正樹「それだけじゃない、社会に出てからの新たな礎とか?」
同級生A「礎ねぇ・・・そんなの俺の姉ちゃん見る限りだと社会人1年目くらいしか役に立たない気がしてるけれどねぇ」
正樹「だったら、学校の勉強よりもっと役立つ何かを知ってるのか?」
同級生A「そりゃぁ、今まで培った経験、思い出とか?」
正樹「今までの思い出ねぇ。思い出ってそんなに大切なのかな?」
同級生A[随分と横暴なことをいうじゃないか。もちろん思い出は大切さ。思い出があってこそ、ドラマが生まれる。]
正樹「何が言いたい?」
同級生A「人との交流をもっと大事にしろってこと。」
正樹「今こうして話している時間は正直、別な思い出として記録されていそうだけどな。」
同級生A「別なって?」
正樹「勉強妨害されてるって話、思い出っていうといい意味でつかわれるけれど、今のはネガティブな意味で・・・。」
同級生A「正樹ってたまにきつい冗談いうよなー!(笑)」
正樹「特に冗談ってわけでもないのだけれど・・・」
と話していると、急に教室のドアが開かれて
先生「あ、こら、また勉強ばっかりして!学年1位とってもそれじゃあ孤立するぞ?社会じゃ孤立する奴なんて通用しないからな!」
そうひとこと言い残してすたすたと教室から出ていった。
正樹「自分より出来のいい人を見かけると嫉妬心がわくのかな・・・?あの担任、最初はあんな感じじゃなかったよなぁ」
同級生A「まぁ孤立しているって思われても否定の余地ないけどね。」
正樹「う、うるせぇ」
同級生A「だってうちのクラスメイトってさ、テスト期間中以外は正樹に話しかけないじゃない?つまりそういうことだよ。正樹に誰も興味を持ってない」
正樹「友達ってそういうもんじゃないの?」
同級生A「正樹・・・テストの時だけ話しかけてくるやつは友達って言わないぞ」
正樹「それもそうか、ん?」
女子生徒「え?」
確かに目が合った。が、その日はすぐにその女子生徒は駆け出してどこかへ行ってしまった。
同級生A「なんだ?知り合い?」
正樹「いや知らないやつだ。目が合ったらどこかに行ってしまった」
次の日以降
それから何度か日をまたいだが、学校がある日は1日も欠かさずに教室の入り口に立ってこちらを覗いていた。
正樹「なぁ佐々木、あいつってなんでいつもあそこにいるんだろうな?」
佐々木「やっと俺の名前を覚えたか・・・」
正樹「ああ、最近名簿を見た」
佐々木「遅えよ。もう7月も終わっちゃうよ。」
正樹「それより、あの子って一体何者だ?毎日飽きずに扉の向こうからこちらを見つめているように感じるんだが」
佐々木「話を書けに行ってみれば?もしかして正樹に興味があるのかもしれないよ?」
正樹「そうしてみるか。」
佐々木「あれ?意外と人見知りじゃないんだな。ずっと机に向かってるから人見知りだと思ってた」
正樹「こう見えても、中学の時は友達が多い方だったんだぜ?」
佐々木「今じゃ全くそうは見えないけれどなぁ。だって友達って俺意外にいないじゃん?」
正樹「佐々木って友達だっけ?」
佐々木「いやそれはひどくない?入学してから6か月以上離して今月で7か月目ですけど?それって友達ってことじゃないの?」
正樹「うかつに友達は増やすなって両親に指摘を受けたことがあるからな」
佐々木「今ので確信したよ。本当に友達が多かったんだな、変な奴含めて・・・」
佐々木の皮肉った言い回しを無視して、正樹は女子生徒のいる方のドアを勢いよく開けた。
女子生徒「ひゃ!」
正樹「なんだ?あまりにも突然の出来事でびっくりして尻もちついちゃったよって感じのリアクションは」
女子生徒「まさにその通りでまったく反論の余地がないよ。なんでそんなに具体的にげんごかするかなぁ」
正樹「よく小説を書くからなぁ、話すように小説を書いてる。硬い文章が苦手でな」
女子生徒「もともと学年最下位なのに?」
正樹「佐々木、こいつ俺が学年最下位の時のこと知ってるぜ」
佐々木「それってさー正樹が弱みを握られてるってやつじゃーん?」
正樹「え?初対面から悪条件なの?そりゃぁ大したクソゲーだ」
佐々木「いや、むしろそのほうが良作だろ、頭使うし」
正樹「え?そうなの?」
佐々木「ほら、元がバカなところが丸出し。勉強できても後付けってことがバレてるよ?いいの?」
正樹「は!!しまった。ごほん、今のはそうだ、悪霊の仕業ってやつだ、俺に取り付いている悪霊が悪さをしてて・・・」
女子生徒「悪霊なんて見えないけれどねぇ」
正樹「え?悪霊って見えるものなの?」
佐々木「だめだこりゃ・・・」
女子生徒「なんか、すぐに私のペースに載せられるから扱いやすくて面白―い」
佐々木「もはや手のひらで踊らされてる・・・どうしたものか。新しいおもちゃを見つけたって感じで正樹を見てるし・・・。」
正樹「そうだ、君、名前は?」
女子生徒「如月那由多」
正樹「俺の前で偽名を使うとはよくやるな」
女子生徒「なんで偽名ってわかった!」
正樹「いいから、本当の名前を答えろ。」
女子生徒「緋色真子よ」
正樹「それが本当の名前か?」
女子生徒「本当の名前よ!まさかカマかけたわけじゃないでしょうね?」
正樹「もちろんカマをかけた!どうだ!すごいだろう!」
真子「信じらんない・・・私のほうが上手(うわてだと思ってたのに)」
正樹「それにしても真子、」
真子「したの名前で呼ぶな!初対面で!」
正樹「それにしても真子、」
真子「人の話を聞いて・・・いや、やっぱり真子でもいい」
佐々木「へー正樹に心を許す奴なんているんだ。話しちまったのか、心を許しちまったのか、俺意外のやつと・・・」
正樹「ああ、まさしく、今この瞬間、許してしまった!」
佐々木「ふっはっはっはっは、腹痛てえ・・・真顔で言うなっての」
真子「なんで笑われてるのかもわからないくせに・・・、まぁいいや、元気そうだし」
正樹「正直に生きていたいだけだ。でも時々、分からなくなる時がある。ぷつんと突然糸がキレるように、途中までわかっていたはずのことが唐突に分からなくなる時が」
真子「それがあなたの特徴ってやつよ。よく憶えて置くことね。まぁこういっても忘れるんだろうけれど」
そう言い残して、彼女は去っていった。
佐々木「何だったんだ?知り合いでもないんだろう?」
正樹「初めてなのになんだろうなこの気持ち・・・」
佐々木「なんだ?あいつにときめきでもしたのか?」
正樹「いや、相手が女の子なのに、何も感じなかった!」
佐々木「いや悲しいことをそうきっぱり言い張るなよ・・・、俺まで悲しくなってくるじゃねぇか」
佐々木「本当に、あいつのこと知らないのか?過去にどっかであっているような素振りだったぞ。」
正樹「いや、今日話すのが初めてだ。そのはずだ・・・」
佐々木「変だなぁ。不思議なこともあるもんだ。こっちは知らないのに、向こうは知っている、なんかどこまで知っているのか試してみたい気もするけれど、でもなんか・・・」
正樹「女の子のプライベートは探りたくない、てか?」
佐々木「そうそう、それそれ!なんていうかさ、可愛そうじゃん?」
正樹「確かに。でも、やっぱり、」
佐々木「気になるよな」
次の日教室にて
佐々木「正樹、来たぞ」
ガラガラガラ。
真子「ちょっと!いきなり開けないでよ!」
正樹「そこにお前がいるから」
真子「お前じゃない!真子って名前があるんだから、名前、教えたでしょ?」
正樹「そういえばそんなこともあったような。それより、なぜほぼ毎日教室に来るんだ?」
真子「なんだっていいでしょ・・・?」
正樹「もしかして、教室に好きな人でもいるのか?」
そういうと少し真子の顔が赤くなった気がした。
正樹「図星か?真っ赤だぞ!?」
真子「赤くなってない!赤くなってないからぁ!今日はもう帰る」
正樹「家なら同行するぜ」
真子「しれっとなれなれしくするなっての!いきなり知らない人を案内するわけないでしょ。」
正樹「そうか、知らない人だったな、じゃあまず自己紹介を・・・」
真子「血液型B型、生真面目、運動音痴、入学時は学年最下位、今は学年1位。」
正樹「そのくらいクラス以外のやつも知ってるさ」
真子「じゃあこれは?あなたは周りの人がたまに自分の知らないことを差も知っているかのように口走る。自分にない自分の思い出を持っているかのように」
正樹「なんでそれを!誰にも、言ったことないはずなのに」
真子「ちょっと・・・肩・・・痛いってば」
正樹「すまない・・・。なんでそれを知っている。どうして・・・。確かに俺は思い出のどこかが欠損してる時がある。まるで記憶にロックが掛かっているみたいに。今日だってそうだ。本当はお前と、真子と話した事すら名前すら憶えていなかった」
真子「じゃぁなんで今日は私の元に?」
正樹「あれだけ毎日きてたら気になるだろう。ただそれだけだ」
真子「昨日はあんなことをしておきながら?」
正樹「え、俺って昨日、真子にそんなにやばいことをしたのか?」
真子「忘れちゃったんだぁ・・・」
正樹「す、すまない、俺が悪かった」
真子「その様子じゃ、本当に忘れちゃったのね。安心して、昨日は話しただけで何もなかったから」
正樹「驚かせやがって・・・。でもそうだな、やっぱり引っ掛かりがある。真子はどこまで俺のことを知ってるんだ?教えてくれ・・・」
真子「分かった。じゃぁ明日の昼休みに屋上に来ること。いい?あ、一応、はい、メモしてあげたから、これ、無くさないでね!じゃあまた明日」
そのときの真子の姿はどこか寂しげで、後の祭りって解っていた気がした。
次の日
佐々木「よっしゃぁー!昼だあ!授業だるかったなぁー。正樹!一緒に購買行こうぜ」
正樹「おう」
佐々木「おお、正樹の弁当うまそう!」
正樹「毎朝自分で作ってる。なんか手慣れてなくて、茶色が多いけれどな。」
佐々木「パワフル弁当って感じでいいよな。肉だ肉!高校生には大事な栄養素だ」
正樹「そういわれると確かにそうかもな。ただ太らないように野菜も少し入れてる」
佐々木「ほんとだ、ミニトマトとかレタス入ってる。買い物とかってどこでしてる?」
正樹「近くのスーパーが多いな。基本的に自転車か徒歩でイケる範囲のところが多いな。」
佐々木「へー意外だな。正樹って運動あまり好きそうじゃないから、徒歩限定かと勝手に思ってた」
正樹「運動音痴と運動嫌いは混同しちゃいけない。俺は運動は好きなんだよ。」
佐々木「本当かなぁ?」
正樹「本当!」
真子「何が本当よ・・・」
正樹「えーっと、」
真子「誰?みたいな顔しない、真子よ」
佐々木「ほんと人の名前覚えるの苦手だよな。正樹って。あっはっはっはって、なんで睨んでくるの?正樹、俺この子になんか悪いことした?」
正樹「俺に聞かれても・・・」
真子「(小声で)なんであんたがそれを言っちゃうのよ・・・」
正樹「え?何、あ、ちょっと・・・手を引っ張らないで」
真子「付いてきなさい!」
正樹「いてて・・・なんだよ屋上なんかに連れてきて。」
真子「あんたのポケットに聞いてみたら?」
正樹「ポケット?なんだ・・・これ・・・。メモ帳?」
真子「1ページ目を見てみなさい」
正樹「1ページ目・・・」
「7月7日七夕の日に、屋上に来なさい!って言っても明日なんだけれどね。まぁあなたは必ず忘れてしまうだろうけれど。真子より」
正樹「これ・・!いつから!?そうだ今日の日付・・・は!、7月7日・・・今日は七夕・・・」
真子「そう、それは正真正銘私が昨日、あなたに手渡ししたものよ。でも解ってた、忘れるって解ってた。だけどなんでだろうね、本当に忘れられると心からこんなにも悲しくなるなんて」
正樹「教えてくれ、お前は・・・」
真子「お前じゃないわ、私は真子。緋色真子よ・・・憶えられなくても感じ取りなさい!難しいかもしれないけれど、思い出にしないで、憶えていてほしい。あなたの記憶の片隅に」
正樹「真子・・・君は誰なんだ?そしてなんで泣いているんだ?」
真子「・・・答えは・・・今から話す。きっと忘れるだろうけれど」
3年前
正樹「やった中学1年最初のスタートダッシュからうまくいった!」
真子「あなたは本当はバカじゃなかった、主席トップの成績でずっとトップを撮り続けていた。今のあなたは憶えていないだろうけれど。」
正樹「母さん!今回のテストも学年トップだったよ!」
正樹母「それはすごい!母さんとても嬉しいわ。」
誰のためでもない、ただ母子家庭で育ってきた、育ててくれた母を元気づけるためにただひたすらに1番を撮り続けた。塾へ行くお金だってなかった。
自分が代わりにアルバイトをしてあげたいと思った日もあるほどだが、現行の法律では中学生以下のアルバイトは許されてはいなかった。
そんな苦しい中でついに、母は病に倒れた。
病棟に毎日通う中で、
正樹「母さん、つぎも一番を撮るから元気になってね!」
そう伝えていた。
いつも母は
正樹母「必ず元気になってみせるから!安心してまっとき!」
そう誇らしげに伝えていたそうだ。
だけれど・・・。
正樹「母さんの嘘つき・・・」
独りひどく葬儀場で泣き叫ぶ正樹を前に、私は声をかけることもできなかったんだ。
現代
真子「ねぇ正樹、お母さんの顔も思いだせないんじゃないの?きっと思い出せないのは、私だけのことじゃないはず・・・」
正樹「俺・・・は・・・」
正樹「なぁ教えてくれ、この涙はなんなんだ?どうしてこんなにも俺は、悲しいんだ?」
真子「それはね、忘れている現実を直視できたからよ。きっとあなたは完全に忘れたんじゃない。こうして話して、何も心に響かなかったらあなたは涙をこぼすことはなかった。だけれどあなたは今泣いている。」
正樹「これが何を意味しているかなんて、わからない。でもわかりたいとは思う。教えてくれ、その先の未来を」
真子「いいわ。全部真実、嘘偽りなく話すから聞いてね」
正樹「ああ、全部受け止めてやる」
1年前
真子「受験シーズンだった。彼と、正樹とであったのは。高校の下見をしに行ったの。その時に不安げな表情が印象的だった。」
真子「なんでそんなに深刻な顔をしているの?」
今思えば、デリカシーに欠けた質問だったと思う。
でも正樹は答えた。
正樹「俺が頑張る理由が母さんの笑顔だったから、その目標を失って今迷走している。」
真子「そのあとは、正樹の過去をすべて聞いた。実の母親を元気づけるためだけに精一杯できることを子供なりに考えてやってきたということ。家事、勉学、ボランティア。本人はこんなものじゃ、この程度じゃ母さんは喜んでくれない、もっとしっかりしないといけないと独り思っていた、ひとりでずっと暗い部屋でひとりで泣いていたと聞いた。」
学校では明るい姿だったと佐々木同期の佐々木は言うけれど、そんなのやせ我慢でそれが原因で狂ってしまった。
だから、そんな話をされて私はいてもたってもいられなくて、強い言葉をぶつけてしまったんだ。
真子「なんで、なんで、なんで、それだけ努力してきてあなたはまだ自分が軟弱者だって言い切れるの?十分頑張ってるじゃない。裕福な家計にもすがることなく、たった一人で大人のチカラもほとんど借りずに、ほんとは頼ったっていい年齢のはずなのに、独りで抱え込んで、壊れて・・・、見るに堪えない。なんでそんなに簡単に自分はだめだって言い切れるの?」
正樹「びっくりした。でも、僕がいけないんだ。僕の努力が足りてないから・・・」
真子「あなたは十分努力してるよ・・・。」
正樹「君が、俺の何を知っているっていうのさ?」
その冷たい視線と言葉が私の心をつんざく。
真子「確かに、今日初めて会ったから何も知らないかもしれない。でもあなたに話を聞いている以上じゃ、このまま引き下がれない、あなた個々の学校に入学するのよね?」
正樹「お金がないからね、この公立高校を専願するしかできないよ」
真子「じゃあ、私もあなたと同じ学校に行くから覚悟しておきなさい!」
寒い冬、乾いた空気に響く大きな私の声。
正樹にはどう届いていたのかは知らない。
きっと興味はないって感じだったんだろうけれど私は
真子「私の名前は、緋色真子!ひ・い・ろ!憶えておきなさい!」
正樹「分かったよ緋色真子。」
真子「あんたの名前は?」
正樹「高原正樹」
真子「高原くんね。憶えておくわ。今日から友達だからね!よろしく」
正樹「う、うん・・・」
真子「ビビりすぎ」
そして握手した。
そこから高校1年の入学式で声をかけた。
真子「高原くん!合格してたんだね!」
正樹「え?どちら様ですか?」
真子「えー冗談きついな。ほら受験会場で会った、緋色真子だよ。憶えてるでしょ?名前反芻してたし」
正樹「ひいろ?知り合いにそんな人いたっけ・・・わかんないや」
私は強く失望した。
でもそれで諦めなかった。
何回も彼の様子を伺っていた。
クラスは違ったから教室のドア越しだったけれど彼を観察した。
そしたらどうだろう。
彼は瞬く間に思い出になった瞬間に物事を忘れていくのだ。
真子「こんな残酷なことってあるの・・・?」
そこからいろんな人に高原くんのことを聞いて回った。
そしたら物忘れが激しいバカだの、おっちょこちょいだの悪い噂の傍らに、学年一位という称号があった。
勉強はできるのか・・・。
まぁここは進学校だしそりゃそうか。
そうは思ったものの、
真子「あいつ自己肯定感低すぎ!なんで自分をあんなに卑下するのさ。ほかの学生の何倍も努力しているっていうのに」
彼の下校の後をつけて、彼が普段何をしているのかわかる範囲で見物した。
わかったこと。
彼、正樹は・・・。
忘れるからこそ人の倍失敗して倍努力を重ねていた。
記憶に自然に定着するまできっと膨大な時間がかかっていた。本人は自覚はないけれど私は知っている。
現代
真子「これがすべてよ。」
正樹「なんで君はそこまで僕にこだわるんだ・・・?忘れっぽいバカだと周りのやつらと同じように思っていれば救われたかもしれないのに、今の君は誰よりも辛そうだよ」
真子「それを、あなたがいう資格はない。あなたは自分を大切にしなさ過ぎた。だから変わってしまったの。でも私の知っている正樹はまだ残っていた。純粋で善良で、努力家で。誰よりもまっすぐで、誰よりも諦めなくて、誰よりも、
美しい勝ち方をする人」
正樹「君は何を言って・・・」
真子「さっき説明したわよね。あなたが勉強してきた理由。それは母の笑顔のためだって。本来勉強は自分のためにやるもの。だけれどあなたの矛先はそれだけではなかった。」
正樹「そんなのとってつけた理由だ。」
真子「いいえ、違うわ。私にとっては輝かしい見本よ。なんで記憶がリセットされてしまうのかはわからない。だってそれが、完全に記憶が消えているってメカニズムではないから。」
失われる記憶はランダムだ。
だから怖いけれど。
正樹「不完全な僕にもっとしっかりしてほしい、そう言いたいのかい?」
真子「違う、違う、違うよ。なんでわからないの?」
正樹「はっきり言ってくれなきゃ伝わるわけがないじゃないか・・・」
真子「無謀だとわかっているのに、誰よりもまっすぐに親権に前を見て歩くあなたに最初は疑問を持った。だけどそれが好きに変わっただけのこと。なにがおかしいっていうのか、証明できないまで私はあなたを好きでいる」
正樹「そんな無茶な・・・。でも・・・ありがとう、僕を心から理解してくれて。受け入れてくれて。」
次の日
佐々木「正樹、昨日屋上に呼び出されてただろ?」
正樹「え?何のこと?」
佐々木「さてはまたぼけかまして・・・忘れちゃったか?」
正樹「まぁそんなに重要なことじゃなかったってことでしょ。学食いこうよ」
佐々木「って言いながら正樹は弁当だろ?」
正樹「まぁそういわずに・・・・」
真子「報われないって解ってた。結果がどうなるかなんて解ってた。でももしかしたら何かの拍子で私を思いだしてくれる可能性だってあるじゃないか。それにかけてみてもいいじゃないか。佐々木を憶えれて私を忘れるなんて認めたくない。だけれど、正樹にとっては思い出になってしまったんだなと・・・」
そう思って落ち込んでいた。
だけれど・・・。
正樹「真子!はっけーん!」
真子「うあああ!」
佐々木「正樹ってそういうキャラだっけ?それにしても背後からいきなり肩ポンはないだろ・・・」
正樹「じゃぁ手本を魅せてよ」
真子「正樹・・・」
佐々木「ああ!泣かせた!正樹が緋色を泣かせたぞ!?こりゃいけねぇな」
真子「憶えててくれると思ってなくて嬉しくて・・・」
正樹「もちろん朝まで忘れてたよ」
真子「え?」
正樹「朝起きてすぐにメモ帳を見る癖がつくように、枕の横に日記を書いたメモ帳を置くようにしたんだ。」
真子「つまり、文章上で私の存在を理解したってことか。それにしても・・・このメモ帳。あんた本当は記憶力ものすごくいいでしょ?」
正樹「そんなことないと思うけれどなぁ。」
真子「でも嬉しい。自分のことを知ってる人に憶えててもらえることが、これほどにまで嬉しいことだなんて、今日初めて知った気がする。」
正樹「そっか、そりゃよかった。まぁ俺にはこれくらいのことしかできないけれど、なんかメモによると、真子は忘れられることになりコンプレックスを抱いて・・・いて!」
真子「それ以上言ったらはったおす!」
佐々木「やっぱり昨日屋上で何かあったんだな?教えろよー」
正樹「真子に聞けば?」
佐々木「緋色~」
真子「ヤダ!気持ち悪い!あ、ごめん殴るつもりはなかったんだけれど、つい反射で」
正樹「じゃぁ学食行こうぜ」
真子「私のことを忘れないと誓った彼の努力の結晶。本当に粘り強く最後まで頑張る人なんだなって思えたよ。勇気をくれて、感動をくれてありがとう。こんな手紙を彼に送ったら赤面してしまうだろうか。反応が楽しみでしょうがない」
コメント