登場人物
綾瀬南 女性
綾瀬たくる 男性
ナレーション
所要時間:12分(VOICEPEAK計測)
(南のオープニング)
南
風邪が止まらない。止まらない風邪が私をむしばんでいく。
親にはただの風邪だって言われていたけれど、あまりにも長すぎやしないか?
もう風邪を引いてから早2年になる。
普通の風邪なら1週間もしないうちに治るだろう。
何になんで、なんで私の風邪は・・・
ごほごほ・・・。
強くせき込む。
私このまま死んじゃうのかな?
いや、風邪で死ぬなんてそんなばからしいことがあるわけがないよね。
私はひたすらによくわからない風邪に葛藤していた。
昔からイラストを描くのが好きで、よくIpadを起動してはスタイラスペンでさらさらと絵を描いていく。
だけれど、せき込むたびに、線が意図しない方向にはねてしまったりして、修正の回数が増えていく一方だ。
「ああ、じれったいなぁ!」
いつの間にか、大好きだった絵も、嫌いになりそうだった。
だってせっかくいいアイデアを思いついてもうまく形にできなくなってしまったし、純粋に絵を描くということを楽しめなくなってしまったのだから。
「またいびつな線画ができた。こんなんじゃ絶対仕事にならないよ」
以前は仕事の依頼を受けることができるほどに絵に絶対的な自信があったから私の今の脱力感と倦怠感はとてつもないものだった。
だってさ、今までできたことができなくなって、何が楽しいのさ。
男の死神
「風邪一つなのにね」
南
「誰?」
男の死神
「僕は死神、死が近い人間にだけ見える特別な存在さ。基本的には適切なものに適切な死を与え、その死をもって、魂を回収する。回収された魂は次の代に受け継がれる」
南
「死神・・・適切な死って何よ。私がこれから死ぬのは至極当然のことだって言うの?」
男の死神
「横暴だと思うかい?だけど、まっとうな判断だと思うけれどな。君には目的も何もない。生きる意味さえも、この先の未来さえも見通せていない」
南
「それは・・・それがわかったからって私に死ねというの?」
男の死神
「不服かい?」
南
「不満たらたらに決まってるじゃない!なんだって私がいきなり死の宣告を受けなきゃいけないのよ!」
男の死神
「それは君が選んだ道だからだよ。」
南
「私が選んだ?意味が解らない・・・。私は今でも生きたいと思っているし、死にたいなんて考えたこともない!それに、私はあなたを知らない。」
男の死神
「僕は君をよく知っているけれどね?僕に死を与えたから」
南
「え・・・?ほんっとうに意味が解らない。私、幻影でも見ているのかしら」
男の死神
「とにかく、死にたくないってなら、今からを必死に生きて運命を変えて見せてよ。そしたら僕は退くさ。」
南
「あなたが本当の死神なのだとしたらの話だけれど、まぁその話乗ってあげてもいいわ。私、まだ生きてやりたいことが沢山あるの。この風邪さえどうにかできれば・・・。」
男の死神
「せき込めばせき込むほど、咳をしやすくなる。聞いたことがあるかい?」
南
「ああ、お母さんがよく言っていたわ。それがなに?私に咳を我慢しろとでもいうの?」
男の死神
「できるものならね。」
南
「ばっかじゃないの!?そんなのできっこないでしょ!」
げほげほ・・・。
興奮したあまり、かなり咳込んでしまった。
「あんたのせいで、結構咳しちゃったじゃない!」
男の死神
「他責なんてひどいな。咳をしているのは君のせい、いやこの世界線ではないか・・・」
南
「世界線?」
男の死神
「いやこっちの話さ。」
南
「あんたって、本当は死神なの?」
男の死神
「今でも魂をすぐ刈り取れるくらいの死神さ。でも死にたくはないんだろう?」
南
「ええ、私は生きるの。」
その日から私は不治の風邪に負けずに会社の業績を上げるために業務を頑張っていった。残業だってなんのその・・・。
きっと、あのとき宣告されたってことはさ、私、長くはないんだろうな。
そう潔く振り切れたからこそ、今頑張れていた。
(たくるのオープニング)
たくる
風邪が止まらない。止まらない風邪が私をむしばんでいく。
親にはただの風邪だって言われていたけれど、あまりにも長すぎやしないか?
もう風邪を引いてから早3年になる。
普通の風邪なら1週間もしないうちに治るだろう。
何になんで、なんで僕の風邪は・・・
ごほごほ・・・。
強くせき込む。
僕このまま死んじゃうのかな?
いや、風邪で死ぬなんてそんなばからしいことがあるわけがないよね。
私はひたすらによくわからない風邪に葛藤していた。
昔から小説を描くのが好きで、よくノートパソコンを起動してはカタカタとタイピングの音を響かせて、脳裏に移った情景や物語を言語化していく。
だけれど、せき込むたびに、思い立った感情がぶれて、思うように心が動く文章にならない。修正の回数が増えていく一方だ。
「ああ、じれったいなぁ!」
いつの間にか、大好きだった小説執筆も、嫌いになりそうだった。
だってせっかくいいアイデアを思いついてもうまく形にできなくなってしまったし、純粋に小説を書くということを楽しめなくなってしまったのだから。
「こんな心理描写じゃだめだ面白くない。こんなんじゃ絶対仕事にならないよ」
以前は仕事の依頼を受けることができるほどに文才に絶対的な自信があったから僕の今の脱力感と倦怠感はとてつもないものだった。
だってさ、今までできたことができなくなって、何が楽しいのさ。
女の死神
「風邪一つなのにね」
たくる
「誰?」
女の死神
「私は死神、死が近い人間にだけ見える特別な存在よ。基本的には適切なものに適切な死を与え、その死をもって、魂を回収する。回収された魂は次の代に受け継がれる」
たくる
「死神・・・適切な死って何さ。私がこれから死ぬのは至極当然のことだって言うのかい?」
女の死神
「横暴だと思うかい?だけど、まっとうな判断だと思うけれどな。君には目的も何もない。生きる意味さえも、この先の未来さえも見通せていない」
たくる
「それは・・・それがわかったからって私に死ねというの?」
女の死神
「不服かい?」
たくる
「不満たらたらに決まってるじゃないか!なんだって私がいきなり死の宣告を受けなきゃいけないのさ!」
女の死神
「それは君が選んだ道だからだよ。」
たくる
「私が選んだ?意味が解らない・・・。僕は今でも生きたいと思っているし、死にたいなんて考えたこともない!それに、僕はあなたを知らない。」
女の死神
「私は君をよく知っているけれどね?私に死を与えたから」
たくる
「え・・・?ほんっとうに意味が解らない。僕、幻影でも見ているのかなぁ」
女の死神
「とにかく、死にたくないってなら、今からを必死に生きて運命を変えて見せてよ。そしたら私も潔く諦められるのにさ」
たくる
「君が本当の死神なのだとしたらの話だけれど、まぁその話乗ってあげてもいいよ。ぼく、まだ生きてやりたいことが沢山あるの。この風邪さえどうにかできれば・・・。」
女の死神
「せき込めばせき込むほど、咳をしやすくなる。聞いたことがあるかい?」
たくる
「ああ、父さんがよく言っていたな。それがなに?僕に咳を我慢しろとでもいうの?」
女の死神
「できるものならね。」
たくる
「ばっかじゃないの!?そんなのできっこないでしょ!」
げほげほ・・・。
興奮したあまり、かなり咳込んでしまった。
「あんたのせいで、結構せき込んじまったよ!」
女の死神
「他責なんてひどいな。咳をしているのは君のせい、いやこの世界線ではないか・・・」
たくる
「世界線?」
女の死神
「いやこっちの話さ。」
たくる
「君って、本当は死神なの?」
女の死神
「今でも魂をすぐ刈り取れるくらいの死神さ。でも死にたくはないんだろう?」
たくる
「さっきはああいったけれど、どうだろうな・・・でもなんていうか生きがいってものがないんだよな」
女の死神
「だったら作ればいいじゃない!」
たくる
「何!?急に・・・」
ぽたぽたと何かがベッドに零れ落ちる、涙だ。
女の死神
「あなたがいつもそうだから、私は・・・、いやなんでもない」
何事もなかったかのように今のことは忘れろと促してくる死神。
だけれどなんだろうか、この人は本当は人なんじゃないだろうか?
本物の死神だとか言って、実は僕のことを元気づけようとしてくれているのだろうか・・・?
もしや会社の同僚か!?だとしたら、かなり恥ずかしいところを見せてしまったな。
そう考えるともう少し頑張ってみようと思えるようになってきた。
たくる
「わかった明日から頑張ってみるよ」
その日から僕は不治の風邪に負けずに会社の業績を上げるために業務を頑張っていった。残業だってなんのその・・・。
でもきっと、あのときあんな風に言われたってことは、僕、長くはないんだろうな。
そう潔く振り切れたからこそ、今頑張れていた。
ある日、僕はいつも話し相手になってくれている死神にお礼をすることにした。
たくる
「いいから一緒に行こうよ!どうせ誰にも見えてないんでしょ?」
女の死神
「別に見えないってわけじゃ・・・」
たくる
「まぁいいから、いつも悩みとか聞いてもらってるし、何より頑張る理由を僕にくれたのは死神さんじゃないか。お礼がしたくてさ・・・一緒にレストランいかない?」
女の死神
「またこの人は・・・」
たくる
「またって・・・今回が初めてだけれど?」
女の死神
「何でもない、こっちの話」
たくる
「そう・・・」
それから一緒にレストランに行って死神と食事をした。
なんか変わった風に周りの人の目には映ったのだろうか?
それとも見えてすらいないのだろうか。
もし見えていないのだとしたら、僕だけの思い出だな。
大切な思い出。
大切な人との思い出。
ナレーション
「二人の並行世界で起こる二つの物語。
互いに頑張るという意思は合致するものの、実は本当の死が確定しているのはどちらかなんて、テストの点で決まっていたことは死神もよく理解していました。
業績、生活の充実度、生活習慣どれをとっても生かすに値するのはどちらなのかが天秤にかけられ、死者は死神となり、死神になった後は・・・。どうしようとするのかは、死神自身の考えることです。」
両者とも業績は素晴らしい。だけれどひとつたくる君には欠点があったようです。
これ、判定につき、南さんを生かすことが決定づけられました。
女の死神
「また・・・助けられなかった。」
男の死神
「ゲームはいつでも戦略、僕のほうが優勢ってことさ、なぁ、南?」
女の死神
「あなたにその名前で呼ばれたくない!あなたはたくるであってたくるではない。私の愛したたくるは・・・」
男の死神
「私の愛したたくるは、懸命に頑張って人助けして、死神のことまで調べ上げて理解しちゃうんだもんねえ、メンターたくる!いっけてるぅ!」
女の死神
「そんな風に言わないで!人の努力を、思い出を笑うな!」
男の死神
「人間のお前に言われたくないね。この死神もどきが!あははははは!」
女の死神
私は何度だって繰り返す。
諦めない。自分のためにだけ頑張ってきた私だけが生かされるなんて、たくさんの愛をもらった私だけが生かされるなんて耐えられないもの。
ねぇ、たくる、生きて。
今の脱力感と倦怠感はとてつもないものだった。
だってさ、今までできたことができなくなって、何が楽しいのさ。
女の死神
「風邪一つなのにね」
たくる
「誰?」
女の死神
「私は死神、死が近い人間にだけ見える特別な存在よ。基本的には適切なものに適切な死を与え、その死をもって、魂を回収する。回収された魂は次の代に受け継がれる」
私はいつだって、どの次元にいたってこの人を愛しているんだ。
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