ロゴユメ

不老不死荷物

虹 掌編小説

小学生まではランドセルで、中学に上がる頃に鞄にした。

成人した今でも同じ鞄を使っているほど、上質で丈夫な鞄だ。

今思えば好き好んでしょっていたその鞄が自分の首を絞めることになろうとは思いもしなかった。

だから毎日のように学校にしょっていったものだ。

最初に異変に気付いたのは成長期だというのに、身長体重が中学一年生のころと合致していたのだ。

こんなことはふつうありあえるのだろうか。

せいぜい0.1センチ程度大きくなっててもおかしくはないはずだった。

異変はそれだけでは終わらなかった。

翌年の身体測定。

嫌な予感はしていたが、その予感は見事的中し、俺は体の状態に一切の変化が見られなかった。

伸びてない。

現代において150cmの中学生なんてそんなにいないだろう。

みんな背が高いもの。

平均身長よりきっと下だ。

最悪すぎる。

低身長の男子ってモテないっていうしなぁ。

牛乳とか飲み足りなかったのだろうか。

食事等で改善できるならそうしたいところだよ。

高校に上がりそれでも150cmで3年間を過ごした。

あまりにも小さいから高校では列になって動く時は最前だった。

俺が小さいことをいいことに高い高いをする人もいた。

そういう絡み方は嫌いじゃなかったし、むしろ低身長で声が高いことで注目を集めて友人はいっぱいできた。

肉体労働では絶対にかなわないから、頭脳戦で行くことにした。

四年制大学へと進学し、学問をたくさん学んだ。

そして俺は大学教授になった。

学生との研究も共同実験者との研究もなかなか楽しいもので、月日はあっという間に過ぎていき定年を迎えた。

そのころに言われてから気づいたことがあった。

今まで大学のことに一球入魂していてそちらまで意識が向いていなかった。

「教授ってもう65歳なのに肌もつるつるでまるで学生さんみたいですね。」

自宅の鏡面を眺めると確かに若い。

そういえば今まで髭をそったことがなかったな。

髭をそるという感覚が俺にはわからなない。

そして悟った。

俺は若いまま年齢だけを重ねたのだと。

理由はずっとわからないままだった。

友人にチャットで聞いてみるが、そういう体質なんじゃないといわれただけだった。

何か霊的、または物理法則を覆す何かの作用が自分に働いているのではと、元教員らしくもない考えを募らせていた。

あのころ、つまり中学生だ。

そこらへんから自分の身体の成長は止まっていたはずだ。

そのころから変えていないこと、ものは・・・。

ある。

鞄だ。

私は頭に閃いたリュックサックを探し手に持つ。

ものが私の成長に関与している童話を思い出してよかったと思う。

果たしてそんなことが現実に起こりうるのか疑問だったが友人に話を振ってみると、そういうのに詳しいやつがいるから明日会わせてやるよと返答があった。

後日、友人は一人の男性を連れてきた。

若人という言葉が当てはまるほど友人よりはるかに見るからに若い男が立っていた。

「あれ?昔と何一つ変わっていない、瓜二つってところだね。顔も髪も若々しくて羨ましいぞ。」

友人にとって若さは羨まれるものだったけれど、自分にとっては寧ろ不要なものだったから、発言に対して複雑な心境だった。

「まぁとにかく上がってください。」

家内に二人を案内して話を進めていった。

するとどうやら俺のもっている鞄が魔道具の一種であるという悲劇的な真実を伝えられた。

「大丈夫。俺たちもさ100歳まで生きるから、お前を一人になんてさせないさ。」

そう言っていた彼は80歳でこの世を去ってしまった。

ほとんどの友人も他界してしまい、俺は一人になった。

こんなみじめで悲しく、孤独な想いをするくらいなら、残りの金を使ってでもみんなに会いに行きたいとそう切実に思うのであった。

あの鞄はもちろん65年前に破棄した。

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