ロゴユメ

彼女の執筆が描く世界

恋人 掌編小説

ある日私は夢を見るようになった。

これだけ聞けば一見普通のように感じるが、帰宅の遅い私はいつしか夢を一切見ない生活を送っていた。

そんな中で、私は夢を見るようになったのだ。

続きはなく、いつも同じところで止まってしまう夢だ。

毎日同じ夢を見るものだから、何かの暗示かと思った。

きっと近いうちに何か起こるのだろうと私は身構えていた。

しかし、一か月が過ぎた今とくにこれといった変化はなく、夢だけ毎晩見続けているという感じだ。

夢の内容はこうだ。

私が妻の前まで移動してある本を受け取る。

でもその内容は読めないのだ。

夢の中で本を開こうとするが、どう頑張っても開くことができない。

そんな私に向かって夢の中の妻は口頭で何かを訴えかける。

そこに音声はなく、口パクなのだ。

一体何を言わんとしているのか。

一部だけ自分の心の中で音を合わせることで感じ取ることができた。

その一言がありがとうという言葉だ。

一体何に対しての言葉なのか、私には一切心当たりがなかった。

共働きの中だ。

何か思うところがあっても普通のことだ。

一か月半が過ぎようとしたとき、仕事による日々のストレスからだったのだろうか。

妻は突然うまく言葉を発することが困難になり、退職を余儀なくされた。

妻も人間だ。

脳内では山ほど話したいことがあったはずだ。

話したくても音を発せないもどかしさが、口パクに見える妻の表情と、ぎゅっと握る拳から伝わってくる。

音にできないから、文字にと妻に想いを紙に書くように勧めてみた。

内なる気持ちを文字にすると、以前よりも気が晴れているようだった。

表情は快晴だ。

いつしか妻あ小説を書くようになった。

私はその毎日書かれていく作品に見とれていた。

妻は不自由ながらに、センスがある。

私はそう思って妻をほめたたえた。

思い至って私は妻の同意の上、作品をネット上に開示した。

外部にも私が妻へ感じる作品への魅力が伝わったのだろう。

ネット上では作品は好評で、書籍化までこぎつけるほどの人気を誇っていった。

私は妻の作品が世に受け入れられていくことがまるで自分のことのように嬉しかった。

だが、第二版が出版され、映画化が決定したころに妻はこの世を後にした。

私は悔しかった。

実写の中で描かれる作品を映画館で妻と二人、見てみたかった。

だが想いは届かず終いだ。

私の世界。

これは妻の遺作となった。

妻が亡くなってから夢は一切みなくなった。

そして、妻の部屋を整理しているときに、一冊の本をみつけた。

表紙にはあなた用と書かれていた。

出版社等の情報はなく、妻が個人で制作したものだとわかった。

中には喋れなくなってからの私との生活が日記として描かれていた。

そして最後にはありがとう、私に生きる意味を与えてくれて。

そう書かれていた。

あの夢はこの本の内容を物語っていたんだとその時気づいた。

 

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掌編小説私色日記
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