一昔前まではロボットが人間のような振る舞い、特に喜怒哀楽に関する表現を行うことは困難とされてきた。
物理的に多面的な力が加わろうともロボットは一定のバランスを二足で保てる状態になったのも五年前の話だ。
そんな困難なレベルは現代において打開されており、歯車の回る音がなければ、聞こえなければ人と見分けがつかないほどに養子や感触、応対の仕方までリアリティあふれている。
そんな中だからロボットには人間に対して行える行為には制約がある。
第一条、ロボットは人間に危害を加えてはならない、またその危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならなない。
第二条、ロボットは人間に与えらえた命令に服従しなければならない。
第三条、ロボットは前掲第一条、第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。
世は既にロボットと対等な立場にある状態だ。
そんな世界の真っただ中、田舎住みの俺はHIEとはほぼ無縁に近かったというか、都会に比べて所持者はごく少数なのが現状だ。
自分がHIEと生活を共にしたら何が変わるのだろうか。
一人っ子の家庭に身を置いている俺にとっては自分や家屋以外の人間の介入自体が新鮮味を帯びている。
とにかく田舎っ子な俺の趣味は森の探索だ。
家は広大な畑に囲まれ、そこから徒歩20分程度のところに森がある。
名を榑林の森と言い、最奥には神社がある。
その神社から見る景色は目を丸くするほど、絶句するほど絶景で毎日見ていて飽きない。
そんな俺の通う学校はここ田舎ではなく、それなりに車や地下鉄の走る地にある。
そう、今は夏休み中なのだ。
ちょっと都会な雰囲気を味わおうと、高校は遠方を選択したのだが、憧れゆえにそっちへ行ったのが失敗だったのか。
楽しいには楽しいが、どこか地元と違って落ち着かず、気疲れしていた。
環境の違い。
ものも人も流通の激しい向こう側へは正直精神をすり減らす感覚があった。
きっと慣れない家事のこともあるのだろう。
「やっぱり地元が一番落ち着くわぁ。」
自然の中に身を委ね、都会とは違う新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。
そんな平和ボケをしている俺の下に突如近づいてくる影があった。
サクサク。
草を書き開けるような音が俺の耳に届く。
田舎だから野生の動物がいても不思議ではない、
そう思った俺は特に音について気に留めることもなかった。
「物音ひとつ気にしない鈍感な人がマスターだなんて。あの人のお考えになることがわかりません。」
棒読みのそれも女性だろうか。
そんあこえが届くなり俺は声の主の方を向こうとした。
ごつん。
突然に部位音がして鈍痛が頭に走る。
「痛い・・・。」
あまりにも顔が近すぎて互いに額をぶつけたらしい。
「キミ、俺の顔を覗き込んで何をしていたの?しかも棒読みで。」
「私は未来のあなたの恋人からあなたが結ばれるまでの守護をもうしつかってこの時代のこの場所にきました。」
ちょっとまってくれ、今恋人っていったか。
そんな未来を約束されているかのような美味しいワードを口にして良いと思っているのか。
だがまだ本当にそうなると決定づけるには早い。
「それ本当の話?」
「勿論本当のことですよ。正直なところこんな鈍感な人のどこが良いのかわかりませんが。」
「ふーん。そういやキミの名前は?」
「私に特に名前はありません。01という番号はついていますが。」
「じゃぁぁレルアーネっているのはどう?」
「響きは悪くないですね。名の由来は何ですか?」
「いや特にそういうのはないんだけれど。直感でそれっぽいのをさ、引っ張ってきただけなんだ。」
「そうですか。マスターがそうおっしゃるならそう名乗ることにします。」
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