トクトクトク…。
普通の人間より心臓の鼓動が速く軽快だった。
人の全身を血が巡っている割には私の鼓動は速いのだ。
もちろんスポーツをすればさらにそれは跳ね上がっていく。
それだけではない。
私の肩甲骨左端から小さくはあるが鳥のような羽が生えているのだ。
家族からは羽毛がふさふさして柔らかくあったかいという感想をもらっている。
血族のうち、羽が生えている人は一人もいなくて、私が唐突に一人だけこの容姿で誕生したのだ。
どうして私だけ人と違うのか。
学校では水泳があったから私の羽の存在はすぐに知れ渡った。
人間は何かと異形のものを排除したがるようで、私はよくちょっかいをかけられていた。
やってくるのはいつも男子で、私が虐められるとすぐに仲の良い女子が仲介に入ってくれる。
その存在があってか、私はなんとか小学校を休むことなく卒業することができた。
中学に入って生物の学習で教員はよく雑学を話していた。
その中で自然と心を震わせたのが心拍数が多い、いわゆる鼓動が速い人は短命だということだ。
それを聞いて私は自分の胸に手を当ててやっぱり速いなぁと思い溜息を吐くのだった。
普通の人間より短い寿命で私は何ができようか。
恋とかしちゃうとより短命になってしまって、相手に迷惑になってしまうだろうな。
そう思考した私は恋愛から自分を遠ざけていた。
運動部にも入らず、走ることのなくあまり移動のないと当時思っていた図書委員に立候補した。
物語を読むことで自分で足を動かさなくても様々な世界に旅行できる。
現代や近未来、異世界などいろいろだ。
ストーリーに没入できるように私は一人称で書かれた小説ばかりを読んでいた。
本よよって臨場感に浸り、自分が鳥人間であることをすっかり忘れて、普通の人間として世界を渡り歩く。
なんて素敵なことだろうか。
「あ、その本、私もお気に入りなんだ。ヒロインの心情がわかるようになるまで手探りで視察していく様はなんとも言えないもどかしさがあるよね。」
静寂の中で話を突然かけられて心臓が飛び出そうなくらいびっくりする。
「あ、嗚呼優香さん。」
私のクラスメイトの優香さんだった。
小学校からの仲だ。
「最近昼休みの間見かけないからどこに行っているのかと思ったら、図書室に籠もっていたなんてね。」
「出来るだけ心拍数を上げたくないなと思ってね。」
「そんなに長生きしたいの?私だったら大人になってからの人生よりも今を楽しみたいよ。ほらだって学生で入れる期間なんて人生の一割程度なんだよ?」
苦笑いを返すと私は自分の今の想いを言葉として伝えた。
「私それでも鳥の名残があるから、向き合って生きていきたいの。」
コメント