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夜勤している地蔵

地蔵 掌編小説

その姿を目にしたのはつい先月のことだった。

地蔵がひとりでに動いたと思ったら姿を一瞬にして人間に換えて寺を出ていった。

どこに行くのかと様子を伺っていると、飲食店それも牛丼屋へと入っていった。

地蔵も腹を空かせているのかと思って尾行していたが店内に入ると地蔵の姿はなかった。

そのまま何も食べずに出るのは失礼だと思い、ご飯が豆腐になっているお腹に優しいヘルシーな丼を頼んだ。

もちろん小盛だ。

あの時暗くてよく顔が見えなかったから店内を見回すも異質なものはなく、どれが地蔵なのかわからなかった。

とりあえずその日は家路につくと、動画を視聴しながら明日の準備をした。

後日アラームでいつもより一時間早く起床した。

そうしたのには理由があった。

俺は食パンを一斤を苺ジャムをたっぷりつけて食した。

そして牛乳を飲んで喉を潤したところで、玄関の扉のノブに手をかけ、外出した。

目指すのは昨日遊びの帰りに寄った寺院だ。

確かにあの場所には地蔵が四体並んで設置されていたはずだ。

行くと案の定地蔵の姿があった。

昨日見えた影はたまたまその場に居合わせた人間だったのだろうか。

日中だとよくわからなかったので、夜間に出向いてみたところ、一体欠けていることに気が付いた。

一人だけ石像ではなかったということか。

俺は三脚を立て、その場にカメラを仕掛けた。

「とりあえずここに仕掛けておけば、戻ってくる瞬間が記録されるはずだ。」

まさか寺院の近辺に個人のカメラが仕掛けられているなんて誰が気づくだろうか。

おそらく確実にやつを捉えることができるはずだ。

今日はその後飲食店に寄ることなくそのまま帰宅した。

次の日。

前日と同様に早朝に寺院へと出向いた。

カメラを回収しその場で映像を確認すると、決定的証拠が記録されていた。

顔はすっきりとした少し縦に長い顔立ちだ。

「よし、顔が映っている。これなら何とか本人を見つけられそうだ。」

夜間、またあの飲食店に顔を出すと、あの人は、地蔵はそこにいた。

ちょうど接客をしているようで接触しやすいことは間違えなかった。

オーダーをするために従業員の呼び出しのスイッチを押してチャイムを鳴らす。

その音につられてあの人、爽やかな風貌の彼がこちらへときた。

「ご注文をお伺いします。」

「なぁあんた地蔵なんだろ?」

それを聞くと唖然として刹那間が開いた後、

「ご、ご注文をどうぞ。」

と一言言った。

とぼけたって無駄だ。

俺はすべてを見ていたのだから。

ここまで来て何も収穫無しに帰るわけにもいかない。

必ずあの謎を暴くんだ。

そして心から納得する結果を導きたい。

「俺、全部見ていたんだ、寺からここまでのいきさつを・・・。地蔵なんだろ?」

「勤務時間外にお伺いしますのでそれまでお待ちいただけるのであればお答えします。」

そう言ってすたすたと厨房の方へと歩いて行った。

牛丼をたらふく食べて、デザートをほおばった俺の腹は大きく膨れていた。

屋外で待っていると、仕事を終えた彼が店内から出てきた。

「長い時間お待たせしました。」

「もう一度率直に聞く。お前は地蔵か?」

その問いに彼はコクリと頷いた。

「昔は寺院へのお参りのとき、たくさんのお供え物がもらえていたのですが、現在では仏教の信仰もだいぶ減り、バイトをしないと食べていけなくなったんです。」

「それが発端だったか。髪とかそういう類の奴らも大変だな。」

「ええ、とても大変です。日中だと人が来るかもしれないので寺院前にいますが、夜間は人が少ないというか全くいないので夜勤していたんです。」

地蔵も夜勤する時代到来か。

俺はふぅと深く息を吐いた。

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掌編小説私色日記
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