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作家のレスラー

小説家 掌編小説

ルールはありきだが、所定の電子デバイス、いわばタブレット端末に書かれた文字を認識して、その通りに動くレスラー人形がある。

近年ではメタバースがはやる中で、デジタル格闘ゲームに移行するのが一般的という声があるものの、それに背くようにデジタル信号をあえてアナログ信号に切り替える形で、現実世界で格闘ゲームを行うというスタイルをとっているおもちゃ業界がいた。

Youuberが動画でこれを取り上げたことにより、この遊びは世代を超えて遊べるだけではなく、メタバースよりも比較的低コストで行うことができ、パーティーゲームとしても活躍し、観客からしても面白い一面があるとのことで人気を博し、現在ではeスポーツの種目になるまでに名を広めている。

そんな名高い立体レスラーと呼ばれるゲームの中で注目を集めているのは、作家だ。

情景描写、いわゆる人のしぐさ、動きに関して具体的に描くことに慣れている人材が、今の時代の強者として君臨している。

前述のとおり、書いたことが本当になる、人形がその通りに動くおもちゃを取り扱っているので、具体性があればあるほど、思った通りにドールを操ることに成功するわけである。

その小説家は、昔からゲームをしていたわけでもなく、格闘ゲームが得意だったわけでもない。

特別反射神経が良いだけではこのゲームを制覇することは難関であり、より具体的、一つの意味でとれる言葉を覚えている人間であればあるほどに、移動速度、移動の仕方、いわば人形の細かな動きを制御することができる。

このゲームに必要なのは語彙力と素早い判断能力だ。

ルールはシンプルで、その作家がやっているゲームでは、人形の左足につけているセロハンをはがすだけのゲームだ。

人形の手も精工に作られており、関節が本物の人間のように細かく動く。

人形のサイズは大人の手のひら二つ分くらいのサイズより少し大きいくらいだ。

「左のつま先を地面につけたまま左膝を地面につき、少し上体を屈ませてばねにして飛び跳ね、一回転前宙した後にそのまま相手にとびかかれ。」

このように小説家は瞬時に口頭で言葉を紡ぐ。

もはや慣れているからこそすぐにそんな複雑な命令が口からこぼれてくるのだと思う。

人形は本当にその通りに動き、相手方の人形を後方へ押し倒し、次の手でセロハンを獲得した。

あの小説家の隣にでる者は出るのか。

世界に羽ばたいているゲームではないから、いつかメタバースのように世界的に注目されるようになったら、あの小説家が歴史に名を残すのは時間の問題なのかもしれない。

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掌編小説私色日記Ⅱ
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