薄暗い街角の小さな雑貨屋。
店内は古びた家具でぎゅうぎゅうに詰められ、埃が積もったガラスケースの中には、異国のコインや古代の文様が刻まれた陶器が並んでいる。
どこか懐かしい香りが漂うこの場所は、時が止まったような不思議な空間だった。
その店の奥にある一つの扉は、他とは違っていた。
金属製のドアに描かれた複雑な模様は、まるで異次元への入口のように思えた。
扉の前には、若い男性が立っていた。
彼の名は翔太。
彼はその扉を見つめながら、何かを思い悩んでいる様子だった。
「これが、あの噂の扉か……」
翔太の心の中には、好奇心と不安が入り混じっていた。
友人から聞いた話では、この扉を開けることで、未来の自分に会えるというのだ。
だが、未来の自分がどんな姿をしているのか、そして何を伝えようとしているのか、翔太には想像もつかなかった。
「開けたら、どうなるんだろう」
翔太は、手を伸ばしてドアノブに触れた。
冷たい金属の感触が、彼の心臓を早く打たせる。
彼は何度もためらい、そしてまた戻ってきては、扉を見つめる。
その時、背後から声が聞こえた。
「悩んでるのか?」
振り返ると、そこには店主の老婦人がいた。
彼女の目は優しさに満ちていたが、どこか神秘的な光を放っていた。
「未来の自分に会うっていう噂、信じてるのか?」
「うーん、どうだろう。未来の自分がどうなっているのか、知りたい気もするし、怖い気もする」
「人間は自分の未来を知りたがるもの。でも、それが本当に幸せなのかは、また別の話だよ」
老婦人の言葉に、翔太は心の奥で何かが引っかかるのを感じた。
彼は再び扉に目を向けた。
未来の自分には、どんな姿が待っているのだろう。
成功した自分、失敗した自分、どちらも受け入れなければならないのだろうか。
「開けてみたらいい。後悔するかもしれないが、開けなければ何も始まらないよ」
「でも……」
「でも、何も得られないまま一生を終えるのは、もっと辛いことだと思わないか?」
翔太は老婦人の言葉に、強く胸を打たれた。
彼は自分の心の中の不安を振り払うように、再び扉に手を伸ばした。
ドアノブを回すと、扉がゆっくりと開いた。そこには、まるで夢の中のような光景が広がっていた。
明るい光とともに、色とりどりの風景が彼を迎え入れてくれる。
翔太は、一歩踏み出した。
次の瞬間、彼は全く異なる場所に立っていた。見渡す限りの未来都市。
高層ビルが空に向かってそびえ立ち、空飛ぶ車が行き交っている。
まったく異なる景色に目を奪われながら、翔太は目を凝らした。
その時、彼の視界の隅に人影が見えた。
未来の自分、翔太の姿が、まるで自分を見つめ返しているように感じた。
彼はその自分に近づいていく。
「お前は、俺か?」
未来の翔太は、今の彼と同じ顔をしていたが、目はどこか冷たく、人生の重みを背負ったような雰囲気があった。
「そうだ。お前が未来の俺だ」
「どうして、こんな姿になってしまったんだ?」
翔太は、未来の自分に問いかけた。すると、未来の翔太は苦笑を浮かべる。
「努力したつもりだったが、結局は失敗ばかりだった。大切なものを失ったり、選択を間違えたり」
「じゃあ、未来を知る意味なんてないじゃないか!」
「そう思うか?俺が辛い思いをしたからこそ、お前には選択肢がある。未来を知ることで、同じ過ちを繰り返さないようにすることができる」
翔太は、未来の自分の言葉に耳を傾けた。
自分がどんな選択をするかは、未来の自分を変えることができるのだろうか。
「でも、怖い。選択を間違えたら、また同じ道を辿るかもしれない」
「それもまた、人生だ。大切なのは、選択をする勇気だよ」
その言葉が、翔太の心に深く響いた。
未来の自分は、彼に何かを伝えようとしていた。
彼は自分の未来を知ることで、より良い選択をする力を得ることができるのだと。
翔太は未来の自分を見つめ、心の中に何かが生まれるのを感じた。
彼は、自分の選択が未来を変えることができると信じた。
「ありがとう、俺。これからの人生、しっかり選択していくよ」
そう言い残し、翔太は再び扉へと戻ることを決めた。
未来の自分との対話が、彼に新たな勇気を与えてくれたのだ。
扉の向こう側へと戻り、彼はその場から立ち去った。
未来は不確かだが、自分の手で切り拓いていくことができる。
翔太は自信に満ちた足取りで雑貨屋を後にした。
その時、老婦人が微笑んでいた。
「どうだった?」
「未来を知るのは、怖いことだと思っていたけど、選択肢があることを知った。これからは、自分の道を選ぶ勇気を持とうと思う」
翔太は、軽やかな気持ちで言った。
老婦人は、その言葉に満足そうに頷き、翔太を見送った。
彼の背中には、未来に向かって進んでいく力強さが宿っていた。
扉は再び閉じられ、未来の扉は静かに佇んでいた。
人は、未来を知ることで、今を生きる勇気を得ることができるのだ。
翔太の選択は、彼自身の未来を明るく照らす光となったのである。
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