「釣りってさ、なんで金銭面で考えれば赤字なのに、こんなにもハマる人がいるんだろうね?」
そう一緒に海釣りに来た卓也に聞いてみた。
私は特に釣りが好きってわけじゃないけれど、特にこれといって趣味もないから、こうして釣りみたいに時間を潰せるものがあると、進んでやりこむようになっていた。
「そりゃぁ同じ赤字でも、パチンコよりは楽しいだろ?」
「そうかな。パチスロやってた時は、何かと確定ラインに入ったら何かと楽しかったけれどな。」
そういや、私が同じ赤字でもレベルが違うだった。
「あの時の裕子はさ、破滅って言葉がそのまま当てはまってたと思う。だけれど、釣りに誘って正解だったと思う。俺もさ・・・」
「釣り、興味ないんでしょ?知ってるよそのくらい。」
「なんだ、知ってたのか。」
「うん・・・。」
なんとなく地平線を眺めながら、リールを巻いていく。
釣りに詳しくない釣り人二人は、赤字を垂れ流してまで釣りを楽しむ。
それは二人で一緒にいるって達成感と、自然を肌身に感じながら開放的になることの同時に押し寄せる快感があるから、きっと賭け事以上にのめりこめたんだと思う。
彼が私を良い方向に変えてくれた。
「私さ、卓也といるの案外悪くないなって思う。釣りは興味わかないけど、ちょっと暇つぶしになっていいかも。その・・・いつも誘ってくれてありがとうな・・・。」
うつむきながらそう伝えると、彼は笑顔で
「ああ、俺も裕子と釣りができてめっちゃ楽しい!」
そんなことを言い出すものだからもう、なんだか胸のあたりがドクンって脈打ったんだ。
何意識しちゃってるんだろう。
私と彼は単なるマンションの部屋が隣同士というだけで、通っていた学校も、勤め先も違う。
共通点は本当にマンションしかない。
そんな彼に私がときめいているんだって?
なんでだろう・・・。
「裕子ってさ、魚釣り好きって言わないけれど、釣りをしているときは夢中になって、釣れろー釣れろー、かかったー!って一人で楽しそうに盛り上がってるよなぁ。やっぱりさ、興味ないことを自然に楽しめるのが裕子の良さなのかもしれないね」
ああもう・・・、
「そういう言い方・・・なんかずるい」
「何?どうしたの?急に顔を真っ赤にして」
「卓也のせい、異論は認めない!」
そのまま卓也を背にして立ち尽くしていた。
そうしている数分の間に、魚が竿にかかったのか、びくっと竿が大きく揺れた。
慌てて私は引っ張るけれど、思った以上に魚のチカラは強い。
「そのまま魚の動きに合わせて」
そういいながら、私の竿に手を添えて、力強く引っ張る。
その時の彼はなんだか、火に照らされた板からなのかわからないけれど、いつもよりも勇ましく見えた。
かっこいい・・・。
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