「キミはいつもわたしを悩ませるね。」
もう口癖になっていた。
彼が私を女というだけでいつも優しくしてくるからだ。
なぜそれを知っているのかというと、彼が自分で雑談の中で話していたから。
「女子に優しく。基本中の基本だろ?」
何の根拠もなしに呟く彼には魅力は感じなかった。
話す内容は薄っぺらくて、でもどこか温かかった。
比較的内向的な私には友達と呼べる存在はいなかった。
なんて話しかけてればいいのかわからなくて、友達になろうの一言さえも出てこなかった。
そんな中、彼は私の机に手をつき、
「なぁお前まだどこの班にも入ってないだろ?俺の班来て一緒に料理しようぜ。」
「お前じゃない、夕夏。西森夕夏。」
「そうか夕夏、必ず俺の班に来いよ!」
そう陽気に言って手を振りながら席を離れていった。
いきなり下の名前なんて反則だよ・・・。
調理実習当日。
「うわあああすげぇ、夕夏が魚のはらわためっちゃきれいにとってる、俺じゃそんな高度な包丁使いはできねぇよ。」
調理する私の横で感嘆の声を上げる彼。
そういえば名前・・・まだ聞いてなかったな。
彼の声を聞きつけてほかの班の人も私の作業に見入っていた。
こうやってみんなに注目されたことなかったから少し緊張したけれど、純粋に嬉しかった。
ほんとだすげぇ。
次々と称賛の声が上がった。
料理の出来はみんなの頑張りがあって見た目も味もばっちりに仕上がり、彼から高い評価を受けた。
実習が終わり、私はすぐさま彼のもとへ行こうとしたが、周りにたくさん人だかりができていた。
彼はクラスの中でも人気の方の人材のようだった。
結局その日は一言も話せずに終わった。
後日早朝、私は日直のため早めに登校すると、すでに教室に彼の姿があった。
他に誰もいないし、今がチャンスだと思って私は話しかけた。
「ねぇ君。」
私の問いかけに彼は反応して顔を向けた。
「何か用か?」
「用があるから話しかけてるんだよ。昨日名前を聞きそびれちゃったから・・・。」
「ああ、俺は中山大我よろしくな。」
「よろしく。私は中学まで今みたいなかんじで過ごしてて、友達なんてできたことなかった。だから中山くんが私の初めての友達だよ。」
「なんだか嬉しい初めてだな。友達いなかったら修学旅行のグループ分けのとき気まずかっただろ?」
「そう、そうなんだよね。私からしたら班全員初めましてでさ、みんな私に敬語で話してた。」
「ふうーん。」
「ねぇ、中山くんはどうして私に話しかけてくれたの?私を選んでくれたの?」
少しぽっと頬を赤く染めて鼻をこすると彼は答えた。
「なんつうか、放っておけなかったんだよ。」
なんだか私はそれを聞いて、心が温かくなるのを感じた。
そして
「キミは私を悩ませることを言うんだね。」
そう一言言っていた。
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