1997年、俺のいとこが近所に引っ越してきた。
いとこは女の子で俺も今日初めて見た。
水色のチェックのスカートに白色の服に身を包んでいた。
髪型はロングヘアーで特に結ってはいない。
俺的にはショートボブが好みなのだが、そのロングヘアーの少女は目に一層美しく、幻想的に映し出された。
何となくお近づきになりたいと思った。
まぁいとこだから思わなくても両親に連れられて挨拶に行くことになるのだろうけど。
俺は彼女を一目見たその日に話をかけにいった。
「なぁお前って本当に俺のいとこなのか?」
率直な疑問を彼女にぶつけると彼女はきょとんとした。
数秒静止したあと、俺が誰なのかを質問からくみ取った。
「あなたが私のいとこなのね。越してくる前によく聞かされていたわ。運動だけが取り柄の男児と聞いているわ。」
そんな雑な紹介をしたのはいったい誰なのか。
俺が訝し気な表情を浮かべると、彼女は俺の期限を取り繕うように話を進める。
「今は運動しか取り柄がなくても、いずれ文才に恵まれるかもしれないじゃない。或いは新たな才能が開花するとか。」
よく難しい言葉が次々と出てくる奴だと思った。
とても小学一年生には見えなかった。
はっきり言って彼女の行っていることの8割は理解できなかった。
そしてその日以来いとことよく話すようになった。
それから5年の歳月が経った。
小学校では担任が頻繁に漢字テストをするので、いとこが良く使っている難解な言葉もわかるようになっていた。
秀逸な頭脳を持つ彼女のいうこと一言にそれなんて意味と連呼していた。
途中で会話が進まないからと質問を遠慮するように言われたほどに。
解説がないと彼女が何を言っているのかわからなかった。
いとこと出会ってから6年目が経とうとしていたとき、いとこは父親の転勤をきっかけに引っ越してしまった。
当時まだいとこと話したいことがあった俺は、手紙を書いてやり取りすることにした。
母親からいとこの現住所を聞き出し、ある程度日常用語を暗記したうえで、手紙を書いた。
きっとこっちから送れば向こうも送り返してくれるだろうという、謎の確信を持っていた。
そして一週間後に彼女から一通の手紙が届いた。
内容は日常を日記風につづったものと、それへのコメントを期待しているという一文が添えられていた。
俺が送った手紙についての感想等は述べられていなかったが、こうして返答があるということは、それなりに楽しんでくれることだろうと俺は思った。
年を越して6年目に突入した。
そこからは俺は迷走していた。
手紙がちゃんと相手にわたっているのかどうかもわからない。
不安で眠れないときもあった。
そうなったのはいとこからの返答が一切途絶えてしまったことによる。
今あいつどこでどう過ごして何を思っているのか。
メッセージを送ったらすぐに返信が来るという、そんな時代が到来すればどんなに心が救われることだろう。
手紙を書いてから相手に届くまで、最低でも3日かかる。
海を渡るんだ。
それくらいかかるのは当たり前だった。
毎日郵便受けをみては届いていないとため息をつくばかりだ。
7月初冬、またあのいとこが帰ってきた。
俺はたまらなくうれしくなり、いとこの姿を見つけて思わず抱きついた。
「おかえり。」
そう一言彼女に告げた。
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