ロゴユメ

上司と本音

馬 掌編小説

同じ作業所で働いていた。

風格は何もしなければ穏やかで、仕事ができる純粋な人材だった。

しかし、彼の業績に目を付けた同僚が二週間程前から嫌がらせをするようになった。

恐らく嫉妬が要因となって、そのような結果を招いたのだ。

俺はできる限り彼の周りつくハエを排除しようとした。

「おいお前ら、生産効率下げることに時間割いてるんじゃねぇよ。業績に嫉妬するくらいならな、こいつを技術で抜いて来いよ。」

強くにらみつけると、奴らは逃走した。

だがちょっと目を離した隙にあいつらは絡みに来る。

だからできるだけ彼が安心して作業できる環境を作るためにそばにいようとした。

だが、上司がそばにいると余計に気が張ってしまい、気疲れするからやめてくれと申し出があった。

俺はそれを聞いてから部下のことが少々心配で、一時間毎に様子を見に行っていた。

「あの野郎・・・陰に隠れてこそこそと。人に傷をつけて、人の傷を増やして何が楽しいんだ?」

いや、楽しいのかもしれない。

やつにとっては快楽だからこんなことを続けられるのかもしれない。

初めは口頭だったが、彼が無視するのが気に入らなかったからなのか、手をあげるようになっていた。

危ない・・・大型の機械を使っているときに人体に影響を与えたら機械に巻き込まれてしまう。

彼の命の危険を察した俺は咄嗟に走り出して大声であいつらを怒鳴った。

が、しかし・・・。

事態は最悪の展開となり、作業服が旋盤にまきこまれ、ゴキリという鈍い音がした後、彼の身体は俺の方に吹っ飛んできた。

「すまなかった。もう少し俺が早く助けに行っていればこんなことにはならなかった。あ、因みにあいつらはクビにした。もうお前をいじめるやつなんざいないさ。」

病棟にて。

彼は全治2か月の怪我を負ったが、工場で起こる事故としては幸い軽度ですんでいた。

片腕の骨が明後日の方向に向いていただけで、大きな損壊は見られなかった。

本当に優秀な人間がなぜこんな目に合わなければならないのだろうか。

「素直になれなかった私の責任でもありますよ、今回の事件。工場長は私のことを何度も気にかけてくれました。でも緊張するからという口実で自分から差し伸べられたて手を払ったんです。自業自得ですよ。」

「守るためとはいえ、俺はやり方を間違えたのかもしれない。君の心情をくみ取ることができないでいた。」

「いいえ、工場長は私の気持ちをわかってくれていましたよ。私に素直さが足りていなかったんです。別に緊張することなんて自分事ですからどうにでもなるのに・・・。奴らも言ってましたよ。自分からガードを剥がすなんてこんなに滑稽なことはない。お前はMなんだって。そういわれたことが私にとって強いストレスでした。違う私はそんなんじゃないって言い返したかったけれど、言い返せばなにをされるかわからなかったから私は騙しました。」

彼は純粋にもう一度誰かに縋ろうとしていただけなのかもしれない。

「縋ることが悪だなんて古い考えだ。一度突き放したって、もう一度戻ってもいいじゃないか。」

その言動に彼は涙した。

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