「もう、本当にダメだわ…」
美沙希はひとりつぶやいた。
彼女はプールの端で座り込み、泳ぐことをためらっていた。
水の中に飛び込む勇気がなくて、いつも友人たちの笑い声の中で孤立していた。
それでも、夏の海水浴計画を前に美沙希は一念発起し、地元のプールで泳ぎを学ぶことを決意したのだ。
「大丈夫ですか?」
ふと、美沙希の前に現れた声に彼女は驚いた。
振り返ると、そこには元競泳選手で現在はコーチとして活躍する桐生が立っていた。
彼の眼差しには優しさと信頼が宿っているように感じられた。
「私、泳げなくて…」
美沙希は言葉を詰まらせた。
桐生は微笑みながら近づき、美沙希の手を取った。
「大丈夫だよ。僕が一緒に泳ぎ方を教えるから、少しずつ慣れていこう。信じてくれる?」
美沙希は心の中で迷いながらも、桐生の言葉に救いを感じた。
彼の優しさと根気強い指導に、少しずつ水に顔をつけることができるようになった。
「よし、次は少し泳いでみようか。まずは浮き輪を使って、呼吸法を教えるよ」
と桐生は言った。
美沙希は浮き輪をつけ、桐生の指示に従って水中に足をつけた。
初めはぎこちなかったが、桐生の教えを受けながら徐々にリズムを掴んでいった。
「いい感じだね。次は浮き輪を外して、自分で泳いでみよう」
と桐生は言った。
美沙希は不安そうな表情を浮かべながらも、桐生の励ましに背中を押された。
彼女は少しずつ自信を取り戻していった。
「すごい!美沙希、泳げるようになったね!」
桐生の声が美沙希の耳に届いた。
彼女は喜びを抑えきれず、プールの中で喜びの声を上げた。
長い間、自分の中に抱えていたコンプレックスが消え去り、美沙希は新たな自信を手に入れたのだ。 しかし、美沙希は桐生の過去にも興味を持ち始めた。
彼がなぜ競泳を辞め、指導者の道を選んだのか、その理由が徐々に明らかになっていった。
若き日の大会での失敗とその後の挫折が、他人を助けることで乗り越えたという過去があったのだ。 美沙希が泳げるようになる過程で、桐生の支えが自信へとつながり、彼女は自分だけでなく、他の泳げない人たちを助けることに情熱を感じ始めた。
夏の終わり、美沙希は海でのイベントに参加し、自らが教える側となり、同じように泳げない子供たちを支えるのだった。
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