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右利きの処方箋

風景 掌編小説

左利きは右脳が左手を動かしているから知能が高いとされているが、何かと日本のしきたりの関係で不便なことがある。

習字はなぜか右手で書かなかいけないし、箸とご飯茶碗を持つ手は必ず日本で統一されて箸は右と決まっている。

今は慣れているからある程度は使いこなせるけれど、本音は左手を使いたい。

だってなんだかいずいというか、違和感を感じることに変わりはないのだから。

それにしても両利きのやつには憧れる。

ピアノ何て弾ける自信はない。

それに加え、足まで動かしてしまうから驚き・・・いや車を運転することを考えるならできて普通のことなのかもしれない。

足と手を同時に動かすことは一見難しいことに思えて意外と単純で簡単なことか。

それはさておき右利きはこういった点で、苦労しなくて羨ましい。

まぁもともと日本のルールが悪いのだけれど。

昼。

そんな話をクラスメイトに振ってみると、

「それならいいものがあるよ。右利きの薬ってのがあるんだけどさ。」

何だろう。

初めて聞く薬品名だ。

「右利きに対するものじゃなくて、左利き専用のものなんだ。日本では左利きは不利なことが多いからね。それに対して不便をなくしてくれるのが・・・。」

クラスメイトは鞄からごそごそと箱を取り出して私の前に提示した。

「これよ。」

「これがその不便をなくす薬。具体的にどんな効力があるの?」

「右手が利き手と同じように動かせるようになるの。」

私は驚きのあまり、え、と声が出てしまった。

「それはつまり両利きになるっていうことじゃ・・・。」

クラスメイトはその発言を否定するように首を横に振った。

「両利きになれたらいいんだけれどね、そういうものじゃないの。利き手を入れ替えるって感じかな。左利きが右利きになるの。」

少々不完全な薬だけれど使ってみる価値はありそうだ。

これで意識せずとも不便さなく生活できるよ。

「ねえその薬どこで手に入るの?」

「薬局に行けば変えるけど、処方箋が必要だから、まず伊崎病院へ行くんだよ。」

なるほど、病院か。

なんか病気でもないのに診察を受けに行くなんて気が引けるけれど、生活の障壁を取り除けるならいいと思った。

「一回の診察で最大一か月分出してもらえるから。ストレスフリーな生活を私と歩もうじゃないか。」

さっそく予約を入れて、後日診察を受けに行った。

特に検査を受けることもなく、いくつかの質問を医師からされて終わった。

処方箋をもらい薬局へと向かうとクラスメイトの見せてくれたあの薬が出てきた。

これが私の未来をこれから良き方向に変えてくれる薬。

家に持ち帰ると、薬の説明が書かれた文書に目を通した。

どうやら朝食後に一回接収するだけで、そこから先、丸一日効き目が続くらしかった。

一日だけ右利きになれる薬。

可能かどうかはわからないけれど、薬で右手を使っているときの感覚を記憶して、両利きになるということができればいいなと思う。

そうすれば日々の中で手を使うことの違和感がなくなるはずだから。

慣れるまでということでまずは初日。

薬の効果を拝見だ。

薬を一錠口に含み、水で流し込んだ。

するとトクンと一瞬大きく脈打った感じがした。

試しにシャープペンを右手に持って文字を書いてみた。

すごい!

すらすらときれいな文字が書ける。

それから右手でやるあらゆる行為を試してみた。

全部成功して感嘆の言葉がこぼれた。

「すごいや!!本当に右手が使えるように・・・じゃぁ左手は。」

試してみるといつも右で書くような汚い、ガタガタの文字になった。

「はは、こりゃぁ両利きまでの道のりは長そうだ。」

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