「マリ、待って!」
タケルは息切れしながら、マリの元へ走っていく。
彼女が不慮の事故で脳死状態に陥ったその日から、タケルの日常は一変した。
彼は神経科学者として、人間の脳内記憶をクラウドにアップロードする技術の開発に携わってきた。
だが、今はそれよりも大切なことがあった。
彼の恋人であり、彼にとっての全てであるマリを救うために、タケルは彼女の脳内にデジタル潜水することを決意したのだ。
「マリ、俺が来るから、どこかで待っててくれ!」
タケルはマリの脳内に入ると、まるで未知の世界に足を踏み入れたかのような感覚に襲われた。
彼は目を凝らして周囲を見渡すと、そこには幼少期のマリがいた。
彼女は笑顔で駆け回り、太陽の光を浴びていた。
「タケル、君が来てくれるのを待っていたよ。」
マリは嬉しそうに言った。
「この場所は私の思い出の中で一番幸せな場所なんだ。」
タケルは思わず微笑みながら、マリに近づいて抱きしめた。
「マリ、君の記憶の中にいることができて、本当に嬉しいよ。」
しかし、探索を進めるうちに、タケルはマリの脳内に自分の知らない人物や出来事が存在することに気づいた。
それは彼にとってはまるで異世界のようなものだった。
一体何が起こっているのか、何がマリの記憶を侵食しているのか、タケルは頭を抱えた。
「マリ、これは一体何なんだ?君の記憶の中に、知らない人物や出来事があるんだけど…」
タケルは困惑しながら訴えた。
「ごめんね、タケル。私もよくわからないんだ。でも、私の中には君のことだけが大切なんだよ。」
マリの声には少しの不安が混じっていた。
タケルはマリの言葉に胸が締め付けられる思いがした。
彼女の記憶の中に何があろうと、彼は彼女を愛し続けることを決めた。
そして、彼女の脳内で起こっている異変を解決し、彼女の意識を救い出す覚悟を固めた。
「マリ、俺が君を守るから。絶対に君を失わないよ。」
タケルは決意に満ちた声で言った。
同時に、マリの記憶の中で起こる崩壊も目の当たりにする。
彼女の思い出が次々と消えていく光景に、タケルは心が痛んだ。
彼は記憶技術の危険性と倫理的問題に直面し、技術の公開か破棄かの選択を迫られた。
そして、マリの意識を救出するか、それとも自然な死を受け入れるかの決断も迫られた。
「マリ、君の意識を救い出すためには、俺たちが技術を公開するしかない。でも、君の思い出は完全には取り戻せないかもしれない。それでも、俺たちは一緒にいるんだ。」
マリは微笑みながら頷いた。
「ありがとう、タケル。私、本当に幸せだよ。」
タケルはマリの手を握りしめながら、彼女の意識を救うために最善の方法を見つける決意をした。
彼は記憶と現実の狭間で、新たな形でマリとの関係を築いていくのだった。
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