登場人物
高田りり(女性主人公)
高田りり(子供ver)
高田ゆきひと(男性)
高田ゆきひと(子供ver)
所要時間 約13分 (VOICEPEAK計測)
りり「はぁ、はぁ・・・もうどれくらい歩いただろうか。
足がもつれる、痛い。靴もボロボロだし、そろそろ汚れた服も着替えたい。
でもそんなお金・・・どこにあるっていうんだ。
誰にも迷惑をかけないように、ただぼんやりと虚空をながめて、1歩、また1歩と歩みを進めていく。その足取りはとても重たい。
こうなったのも、私が生まれてしまった運命だ。
そういう定めだったんだ。受け入れるほか・・・ない・・・。」
ドサッ。膝から崩れ落ちて、体は崩れ落ちる。
りり(そこで私の意識は途絶えた・・・。)
りり(夢を見ていた。とても冷たい夢。
周りの目線が冷たくて、私を敵視している人に囲まれ、私はおびえるように生きている。
でもその集団の中でたった一人、男の子が私に話をかけてくれる。
ああ、私を救ってくれるというのだろうか。
こんな私が救われていいというのだろうか。
数々の人を不幸に突き落とし、その代償として周りから冷酷な目で見られるようになった私を助けようとしていいのだろうか?
でもその温かさと、嘘偽りない瞳に私は心を奪われていた。
この人なら信じていいかもしれない。
この人のためならすべてを捧げてもいいかもしれない。
だけれど夢の中ではっきりしないことが一つあった。顔がはっきりと映らないのだ。
きっと私の脳が、彼をはっきりと憶えていない。
それが原因となって肝心なところで、夢は私にチャンスすらも与えてくれない。
そもそも夢から情報を得ようなんてこと自体が間違っているのかもしれないけれど、私には・・・)
りり(そこでぷつりと夢は途絶え、目が覚めた。温かい布団の感触が伝った)
りり「ええ!?」
りり(私は飛び起きた)
ゆきひと「気が付いた?」
りり「わ!男の人・・・」
ゆきひと「そんなに驚くことなくね?久しぶりに会えたんだしさ」
りり「何を言って・・・」
りりの頭に手を触れて
ゆきひと「よしよし、今までどんな運命をたどってきたのかはわからないけれど、こうして会えただけでも奇跡ってもんだぜ」
りり「気安く触らないで・・・そもそもあなたは誰ですか?」
りり(何かを悟ったように目の前の男性は話の起点を変えた)
ゆきひと「わりぃ、俺の勘違いだったみたいだ、知人に似ていたからつい・・・」
りり「ふだんから女性にスキンシップしているんですか?」
ゆきひと「そんなわけないじゃん。誤解だよ。昔さ、特に君に似たとても仲のいい奴がいて、そいつとは・・・」
りり「かなり仲が良かったんですね」
ゆきひと「まぁな。だけれど、そいつはいつの間にかいなくなっちまった。
夜道だったかな。途中ではぐれちまって、必死になって探したんだけれど、見つからなくて。」
りり「どうしていなくなってしまったんでしょうね。
きっと私と同じ道をたどっていたのだとしたら、誰かに迷惑をかけたくなかったから。こんな答えなのかもしれません。」
ゆきひと「それはどういう意味?」
りり「私といるだけでみんなが不幸になるんです。
特に悪気なんてなくて、誰かに過干渉したこともない。
誰かを陥れようなんて考えたこともない。
でも私が誰かと時間を共にするだけで、同じ空間にいるだけで、その一緒にいる人に不幸が舞い降りてくるんです。」
ゆきひと「そうか、俺はまぁ何も気にしないけれどな。
生まれてからさ、苦労することが少なかったから。俺ってこう見えて才能がある部類の人間だからさ。」
りり「才能があるだなんて自分で言う人ってなんか信用ならないですが・・・。」
ゆきひと「まぁ例を挙げるとだな、特に猛烈に勉強したわけでもないけど選抜の全国模試でトップだったり、ちょっと練習しただけでピアノが弾けたり、後から聞いた話なんだけれど、それって普通の人じゃありえない話なんだって、これこそ天才って感じじゃないか?」
りり「ここにはピアノはないですし、にわかに信じがたいですが、まぁいいでしょう。
そんなに不幸になってもいいというのなら、私はあなたを信じます。
どこまでも私を連れてってください。約束ですよ?」
ゆきひと「きみからそんなことを言われるなんて予想もしてなかった。」
りり「行く宛てもない私を助けたってことはそういうことです。これからよろしくお願いしますね」
りり(そこからこの男性、ゆきひとと私は一つ屋根の下で生活を共にすることにした。
一見すればこれは恋人みたいなものなのだろうか?
でも苗字が同じだった。
私は高田りり。あの人は高田ゆきひと。同じ高田と名乗っている以上、血縁関係があるんだなって感じた。
だからかな、話しやすく感じたのは。同じ血族だからこそ通ずるものがあるのかもしれない。ただ、この先彼に心を許してもきっと、この血縁が邪魔をするのだろうな。
正直、私を救ってくれた、その事実だけでも私の心はいちころで、あの人は白馬の王子様って感じに見えた。
とくに整った顔立ちをしているわけでもない。
かといって不細工というわけでもなく、標準的な、なんかモテなさそうな顔つきをしていた。
ふふ、私ってこんなところまで、彼を目で追って、そして想って、初恋なのに血縁関係で諦めなきゃいけなくて、でも諦めきれなくて。)
りり「なんだかもどかしいなぁ・・・」
ゆきひと「何が?」
りり「なんでもない、ちょっと考え事をしていただけ!」
ゆきひと「何の考え事?」
りり「か、考え事は考え事よ!乙女の秘密を暴いちゃダメ!」
ゆきひと「なんだか、ここに初めて来た頃より心を開いてくれるようになって良かったなって思うよ。」
りり「でも自称天才のゆきひとが玉子焼きを焦がした・・・、洗濯機を壊した・・・、なんだろうこれってやっぱり私のせいなのかなって思っちゃうんだよね」
ゆきひと「自称は余計だよ!俺は天才だからな」
りり「じゃあなんで玉子は焦げたの?」
ゆきひと「ちょっと焦げてた方がおいしいじゃん?」
りり「なんで洗濯機は壊れたの?」
ゆきひと「きっと、変え替えの時期だったんだよ。
ほら、心機一転にもなっただろ?
新しい家電使ってさ、キレイな洋服着て今日もりりは綺麗だ。」
りり「違う、私のことはいいの・・・でもありがとう・・・ちょっとうれしい」
ゆきひと「ちょっとだけ?」
りり「いっぱい嬉しい!」
ゆきひと「そんな大声で言わなくても・・・恥ずかしがってるところも可愛いけどさ」
りり「可愛い禁止!ゆきひとが鈍感だから、何気ない日常に感じているかもしれないけれど、私がこの家に来てから、やっぱり異変が起こってる。」
ゆきひと「約束しただろ?どこまでもりりを連れ出すって。」
りり「そうだけど・・・そうだけど、そうだけどぉ・・・」
りり(やっぱり好きな人を不幸になんてできない。このまま身を引いてしまおう)
りりがドアを開ける音
ゆきひと「りり?どこへ行くんだ?」
りり「(泣きながら)ここに私はいちゃいけないって思ったから、だから・・・ここから出ていこうって・・・」
ゆきひとがりりの手を掴む
りり「はっ!」
ゆきひとがりりを抱き寄せる
りり「ゆきひとの胸の中・・・ぐっしょりになるよ、今、私泣いてるんだ・・・」
ゆきひと「知ってるよ。大丈夫。
周りの人が不幸になっていくのは君のせいなんかじゃない。
こんな能力を与えた神様が悪いんだ。りりは誰かを傷つけようとしてきた?」
りり「そんなこと、一度もないよ。みんなに幸せでいてほしくて私は独りで努力してきた。心の中は孤独だった。努力しても失敗、失敗!ばっかりで・・・だから・・・」
ゆきひと「(小声で囁くように)君が忘れていても、僕は約束を忘れない。」
りり「それって・・・どういう・・・」
ゆきひと「昔話をしようか。単刀直入に言うとね、りりに直結する話さ」
りり「私に直結する話・・・」
りり(私はいてもたってもいられなくなって、開けたドアを閉めて、自分の席にもどってゆきひとが席に着くのを待った)
ゆきひと「さて、聞く気になったって感じだね。そえじゃあ、君が思いだすことを信じて、話していこうかな」
過去話
ゆきひと(あれは、僕とりり正確にはりりがコードナンバーで呼ばれていたころの話だ。
ゼロフォーなんて呼び名のりりはいつも虚空を見つめるように蛍光灯を眺めていた。
当時から優等生だった俺は、ガラスの向こう側の存在として、君を観察していた。
ほかにもたくさん、いろんな人が実験台としてその施設に収容されていた。
人を超えた能力の開花の研究材料として、りりたちは人工的に生み出されたんだ。
生まれた時点で両親もいなくて、すがるものも何もなくて、たくさんひどい実験を受けさせられて、中には途中で死んでしまう人もいた。
とても人間がやることじゃないって思ったよ。
人を道具のように扱う研究員が許せなくなって、僕は脱走を試みた。
その時にずっと窓から外を見ていた君を見て、外に出してあげたいって思ったんだ。
そしたらさ、なんか変わるかなって思って。
今思い返せば俺のエゴだったかもしれない。
でもエゴであっても、こんな無機質で、刺激がない、いつ殺されるかもわからないこんな場所で、ずっと外に出たいと願ってそうな君をおいてはおけなかった。
ほかにも外に出たいと思っていた人もいたとは思う。
だけれど当時幼かった俺には1人を解放するだけでも精一杯だったんだ。)
ゼロフォー「私ってなんで生まれてきたんだろう。生きている間にあの空の向こう側まで行くことすら憚られるなんて、そんな不条理なことがあったいいのかな・・・。」
ゆきひと「それならさ俺が心から出してやるよ。」
ゼロフォー「そんなことできっこない。こんなに厳重に管理されている場所で、脱走なんてしたら、捕まれば私は処分になるだろう」
ゆきひと「何もしないまま諦めるくらいなら、何かしてから諦めたいね。
まぁ俺の辞書には諦めるなんて言葉は書かれてないけれどな。俺は君をどこまでも守ると誓うよ。今決めたことだから」
ゼロフォー「名前も知らない私を守るっていうの?訳が分からない」
ゆきひと「ならなんて名前なんだよ」
ゼロフォー「ゼロフォー」
ゆきひと「なんだそりゃ」
ゼロフォー「私の名前!」
ゆきひと「もっと名前には魂を込めた名前がいいよな。なぁりり?
りんりんって鈴の音が鳴くような美しい声の女性にぴったりだ。お前声がきれいだからさ思ったんだ。でもりんりんじゃ言いづらいからりり」
りり「りり・・・(泣く)」
ゆきひと「ごめん、嫌だった!?」
りり「いや、初めて私にちゃんとした名前がもらえてうれしくて。あなた名前はなんていうの?」
ゆきひと「高田ゆきひと」
りり「高田ゆきひと・・・じゃあ前の名前をとって私は高田りりって名乗る!」
ゆきひと「こら、人の名前を・・・」
ゆきひとに抱き着きながら
りり「名前、ありがとう。これから私をずっと幸せにしてください。」
ゆきひと「わかったぜ。生涯をかけた約束だな」
現代
ゆきひと「そのあとうまいこと研究所を抜け出せて、夜道に途中ではぐれちまった。そのあと行方が分からなくてずっと探してた。どうだ思いだしたか?」
りり「(泣きながら)おもい・・・だした。ゆきひと、ゆきひと、ゆきひと・・・」
ゆきひと「はは、よかった思いだしてくれて。だからさ俺たち血縁関係なんてないんだぜ。」
りり(私はその言葉にどきっとした。ゆきひとと結婚できる。その事実を今知ったから)
りり「ゆきひと・・・」
ゆきひと「なに?」
りり(私はゆきひとの唇にやさしくキスをした)
りり「大好きの証・・・だよ」
ゆきひと「おう!」
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