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振り込む運勢

お金 掌編小説

お金でなんでも買うことができるとしたら、あなたは何を買いますか?

私はその問いに運を買うと言った。

私より若年の男は商人。

それでも普通では手に入らないであろうものまで持っているらしかった。

「強運であればギャンブルが楽しくなるものだろう。」

「そうですか。ではあなたに運を差し上げます。継続してお使いになる場合は、こちらの口座に10万円を振り込んでください。では良き日を・・。」

そういって目に見えるものは何も渡さずに金だけもって男は立ち去った。

本当にこれで運勢が向上しているのだろうか。

もし詐欺だったら訴えてやろう。

さっきもらった名刺を眺めながら私はそう思った。

ものは試しと私は早速麻雀を始めた。

驚異的なことに引き運がよく、連勝し続けた。

おかげでチップを大量入手し、その日で小金持ちになった。

その日に投資口座の手続きを済ませ、FXのシミュレーションアプリを入れた。

FXに関する知識は皆無だったのため、このアプリを使って仕組みやろうそくなどについて学習した。

一週間後口座が開けた。

取引については自信がなかったため、自動売買ソフトを入れておくことにした。

FXの最大の落とし穴はリスクを常に背負うこと。

予測が外れないことを運にすべて任せる形になるが、果たしてどこまで結果を出すことができるのか不安でいっぱいだった。

失敗すれば大損害、借金地獄。

手に汗を握りながら私は自動売買にすべてを託した。

後日結果をアプリで確認すると、運は力を発揮していた。

私はいっきに資産二億を手にすることに成功した。

そこからの人生は順調だった。

お金はあったが、私は仕事を辞めなかった。

やめれば生涯孤独になるっことが想定されるからだ。

そんな金持ちを私は見てきている。

だから私は勤務し続けた。

40代で一人暮らしの私はこの強運を手にする前は仕事に追われて、心にゆとりがなかった。

そうなった理由が金銭的余裕がなく、自分の好きなことにお金を回せなかったためだ。

今では好きなことにお金を使うことができるため、おいしいものを食べたり、ゆっくりゲームをしたり漫画を読むことができる。

そういった娯楽に時間をさけるだけの余裕ができたことは大きな進歩である。

社内では最近明るくなったねと言われるようになったし、たぶん今の人生は薔薇色なのだろう。

ある日ネットを巡回していると高額医療費に頭を悩ませる母親がSNSで助けを求めている文面が目に入った。

悲痛の叫びにも見えたそれは、経済的困窮により、娘を助けられないということだった。

嘆いても変えられない現実。

強運を手にする前の私もかつてはそうだった。

私はその人のアカウントにダイレクトメッセージを送った。

するとすぐに返信が来た。

何度かのやりとりがあり病院で一度会うことになった。

「こちらが入院なさっている娘さんですね?」

母親はこくりと頷き、ええそうですと答えた。

まさか自分が人を助けることができるようになろうとは思いもしなかった。

「キミはまだ若い。私のようなおいぼれよりもまだ先に大きな夢を抱えていることだろう。」

私は娘さんの頭に手を置くと軽く撫でた。

「まだ生きていたいかい?」

「はい。」

「よし、わかった。」

踵を返すと、母親の顔を見て持ってきた鞄ごと渡した。

「中に2000万円が入っています。娘さんの今後に使ってください。」

それを聞くと母は涙をながして、そしてそれを拭いながら

「ありがとうございます。この恩は一生忘れません。」

そう深く礼をして言った。

今思う。

私に助けるチャンスを与えてくれたのも運の力なのだと。

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掌編小説私色日記
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