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間もなく参ります

バス停 掌編小説

目が覚めた時には見知らぬ空間に身を置いていた。

お尻と背中に伝うふかふかとした感覚。

まぎれもなく車のシートだった。

あたりを見渡すといくつか座席があり、最前に運転席があった。

構造的にはバスのようだった。

車内は電気の明かりが灯り、車窓から外の様子をうかがうと真っ暗で何も見えやしなかった。

夜行バスか。

利用するのは初めてだな。

車内には自分のほかにも人が何人もいるようだった。

さっき見たところ満席だ。

「やぁ君、さっきからきょろきょろしているけれど、このバスに乗車するのは初めてかい?」

隣の席に座る、初老の男が話しかけてくる。

「ええまぁそんなところです。」

男はにっこりと笑うとそうですかと言って、手提げかばんから何やら資料を取り出した。

「これをご覧ください。このバスのパンフレットなんですがね、どうやら死後の世界に通じるらしいのです。」

「死後の世界・・・。」

腑に落ちない言葉だった。

言葉が入ってくると同時にそれは脳内に拒絶された。

だってそうだろう。

誰しも自分が死んだことなんて受け入れられるわけがない。

「なぁあんたも死んだのか?」

「御伊倉でいい。」

「御伊倉さんはなくなったんですか?」

それが耳に届くなり何かを懐かしむように遠方を眺めていた。

「肺炎だった。子供のころにも一度かかったことがあって、それと同様に完治すると思っていたが、残念ながら若いころほどの体力がなくて行っちまったんだ。」

「そうだったんですか」

「君のほう、あぁ名前をまだ聞いていなかったね。」

「伊崎雄介です。」

「伊崎君は、生前のころを覚えているかね?」

「それがなぜ自分がここにいるのかわからないんです。」

それを聞いて驚くこともなく、御伊倉は俺に続いて言った。

「そりゃぁおそらく安楽死したね。就寝した時のことは覚えているかね。」

自分の記憶の糸をたどるように一つ一つ思い出していく。

「確かに自室で床についた記憶はあります。」

なるほどと相槌を打つと、それは寝ている間に亡くなったのだと御伊倉は告げた。

「起きたら急にバスが乗っていたのでどうしたのかと思いました。今の話を聞いて事態を呑み込めましたし、諦める決心も付きました。

「諦めるとは?」
「こちらの世界でやっていくということです。」

「そうかい。嗚呼私は、もうそろそろ下車するから、ここまでだね。話せてよかったよ。また会うことがあったらよろしく頼む。」

御伊倉は軽く会釈して下車していった。

死後の世界はどこを見ても真っ暗で、その先つまり降りたところに何があるかなんて想像ができなかった。

でも・・・。

ピンポーン。

俺はここで降りる旨を告げた。

なぜかそこで降りなきゃいけない気がして思わず手が動いたのだ。

そして俺は下車すると、途端に周りが着彩し、穏やかな草原とバス停がそこにあった。

近くに大きな建物があった。

自分の住んでいた場所だ。

家族もいた。

きっと私はここにお別れを言いに来たのだ。

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掌編小説私色日記
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