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最愛の人へ

ススキ 掌編小説

「今日は君にお別れを告げに来たんだ。」

確かに彼はそう言った。

何故?どうして?

私の何が気に入らなかったというの?

様々な葛藤が脳内を巡りゆく。

今まで彼の愛に溺れていて、まさか突然掌を裏返すなんで誰が予想できようか。

普通は誰もしない。

誰しも信じて裏切られないことを前提として、予約されてお付き合いするものだと思っていたから。

第一、デートに誘ったのも、告白をしたのも彼からだ。

心変わりなんてするわけがない。

友達は男なんてすぐ気変わりする生き物だと言っていたけれどまさか本当だと信じたくなかった。

だから私は聞き返した。

「冗談だよね。突然どうしたの?」

少し震えた声で私は言葉を紡いだ。

しかし彼は

「本心だ別れて欲しい。」

冷酷な瞳で、睨むように私を見る。

何故、どうしてそんな顔で私を見るの?

彼から告げられる言葉に応えたのか自然と体が後退した。

「嘘だって言ってよ。」

今できる。

必死の抵抗で、ありったけの好意、否定の撤回を彼にぶつけるも彼は動じることはなかった。

「君はきっと俺よりもふさわしい人に出会える。」

自分の言葉が一切通じないと悟った私はその場から泣きながら駆け出した。

純粋に悔しかった。

二ヶ月という歳月、時間を共にし、愛を確かめあった仲なのにそれは今日になって塗り替えられた。

今までのことを無駄になんてしたくなかった。

悔しい。

だから私はもう一度彼の元を訪ねて見ることにした。

しかし後日に彼にアプリでメッセージを送信しても、電話しても彼の声を受け取ることはできなかった。

彼の実家を訪ねると、額に深い皺を寄せ、目に涙を含んだ彼の両親の姿があった。

彼のことを聞くと、昨日急な心臓発作で彼は亡くなったのだという。

彼の母から彼が書いたという手紙をもらった。

表面には私宛を指す文言が書かれていた。

「医師から余命宣告をされていた。僕はもともと心臓が弱くてね。昔もよく倒れて両親を困惑させていたよ。本絵を言うとね、君のことは世界で一番好きだ。君を遠ざけるようにしたのはね、僕という先が短い人よりも、この先長く君を支えてくれる人にバトンを渡したかったからなんだ。この手紙を君が読んでいるということは僕はもうこの世を後にしている、だから…。」

やめて…私は誰よりもあなたのことの方が…、もう一度やり直しを…。

「幸せに生きてくれ。最愛の人へ。」

最後の一文で堪えていた涙は臨界点を超え、私は膝から崩れ泣いた。

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