「慎くん、ちょっと待っててくれる?」
と私は背後から声をかけた。
驚いた慎くんは振り返り、ニコニコと笑って答えた。
「なんだい、里奈ちゃん。どうしたの?」
私は軽く息を整えながら、目の前に広がる風景を指差した。
「あの建物、見てくれる?すごく気になるんだけど、一人じゃ怖くて入れなくて…」
慎くんは興味津々の表情でそっと私の手を握り、共に建物へと向かった。
そこは見慣れた街並みとは一線を画した、異空間のような存在感を放つ建物だった。
その外観はまるで宇宙船のようであり、入り口には巨大な扉が開かれていた。
私たちは迷いながらも建物の中に足を踏み入れると、中はまるで迷路のように入り組んでいた。
廊下には奇妙な光が灯り、壁には不思議な模様が浮かび上がっていた。
「これ、一体なんなんだろう…」
私は戸惑いながらつぶやいた。
すると、建物の中を歩いていた人たちが次々と私たちに声をかけてきた。
「おい、君たちも迷い込んだのか?」
「ここはどこだ?」
「出口はどこだ!」
私たちは彼らと同じく迷っていることに気づき、慎くんは不思議そうに眉をひそめた。
「まさか…これが迷える館ってやつか?」
「迷える館?」
私は驚きの声を上げた。 慎くんは説明を始めた。
「迷える館は、都市伝説で言われている建物でさ。どこからともなく現れ、入り口が開かれると迷い込んでしまうって話だよ。」
私はぞっとした。
「そんな都市伝説が本当になるなんて…」
慎くんは不思議そうに周りを見渡し、舌打ちをしながら言った。
「まあ、でも迷い込むんだったら、楽しんじゃおうよ。」
私は慎くんの提案に興味津々で頷いた。
「そうだね、せっかくだし。」
そこから私たちは迷い込んだ迷宮の中を冒険し始めた。
一つ一つの部屋には謎が隠されており、私たちはそれを解いていくことで次の部屋に進むことができた。
迷い込んだ人たちも次第に仲間になり、私たちは協力しながら謎解きを楽しんでいった。
時には笑い声が響き、時には焦りが心を揺さぶった。
そして、長い冒険の果てに私たちは出口を見つけた。
そこから外に出ると、晴れ渡った青空が広がっていた。
慎くんは満足そうに笑って言った。
「これで冒険は終わりだね。でも、楽しかったな。」
私も笑顔で答えた。
「本当に楽しかった。ありがとう、慎くん。」
慎くんはにっこりと笑って私の手を握り、二人は館の前で別れを告げた。
帰り道、私はふと思った。
この迷える館の存在が、人々に冒険の心を取り戻させる場所であることを。
そして、私たちが迷い込んだことで出会った人々との絆が、私たちの人生に豊かさを与えてくれたことを。
それから私は、少し大げさかもしれないけれど、毎日が冒険のように感じられるようになった。
そして、迷える館での冒険が私の人生の一部となるのだと思った。 今でも、時折館の前を通る度に思い出し笑みを浮かべる。
あの冒険が私の心に残る限り、私の人生はいつまでも冒険の旅で溢れているのだから。
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