幼いころは普通の境遇で育ち、中学生まで人並みの人間として生きてきた。
それが高校に上がったらどうだ。
どこにでも水音が耳に入るようになった。
俺が高校に入るのを待っていたかのようなタイミングでその症状は軽度なストレスを与えた。
幻聴。
そう呼称するのが正しいか正直わからなかった。
念のため耳鼻科を受信してみたけれど、原因は不明だった。
脳のレントゲンも綺麗。
精神科ではそういった結果だった。
本当に自分はどうなってしまったのか。
水音は相手の状態によって時より違って聞こえた気がしたから、相違点に着目して毎日聞き分けを行っていた。
どうやら音は喜怒哀楽により別々の音を発していることが分かった。
喜びや楽しみといったプラスの感情は高く、逆にマイナスの感情だと低い水音が鳴る傾向にあるようだ。
俺はその力に気づいたとき、誰よりも空気が読めるようになっていた。
そして最大限に力を使い、人の望んだ結果を招くように歯脚方を調整する力、いわば話術を体得した。
俺の的確なアドバイスを聞いて、口コミで噂は広まっていった。
まるで人の心を見透かしているかのような助言者がいると。
この力で有名になる気はさながらなかったのだが、クラスの人から相談を持ち掛けられたことをきっかけとして、広まったらしい。
言うことは的確というか、自分の発した言葉に対する反応を音としてくみ取り、喜びの音になるように言葉を選んでいるだけだ。
人の心なんて読めないし、心理学なんてあまりわからない。
俺にわかるのは音だけだ。
「ねぇ私のこと占ってくださる?」
同学年である赤色のラインの入った上靴を履いていた。
この学校は規模が大きいから、顔を知らないやつがいても別に不思議じゃない。
だが何だろう。
こいつには音がなかった。
「俺、占いなんてやってないけれど。」
「人の心は読める、そう聞いているわ。」
「その噂、正直正しくない。」
「えぇそうね。今のであなたの音、悲観的になったもの。」
「今なんて?」
「音が悲観的になったと言ったのよ。」
俺以外にも音を感知できる奴がいたのか。
これは大きな発見だ。
この力について何か熟知しているかもしれない。
「なぁ、お前俺と同じ水音が聞こえているだろう。」
彼女は口角を吊り上げると、そうかもねと言った。
偶然だとしても、彼女は俺の噂を聞きつけて、そして確かめに来たんだ。
「あなたの助言をするところ、ずっと見ていたわ。ほかの人は気づいてないかもしれないけれど、あなた他人よりも音を重要視して言動を変えていたもの。それでどうかしら、私の音は・・・。」
「お前には音がない。どういうわけかな。ひょっとして人間じゃなかったりするのか?」
そうかもねと言って彼女はクスクス笑った。
「きっとあなたは私と同じ。私にもあなたの音だけが分かりにくかったんですもの。」
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