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空からの言伝

スライド 掌編小説

診断では幻聴となったが、脳内で鳴り響いているのではない。

明らかに外部、つまり耳の外から拾われた音が届いているのだ。

だから自分を病人だと思ったこともなし、主治医の言葉を1つもまともに聞いたことはなかった。

まことしやかに俺の病状と対策を語るのだけれど、どれも腑に落ちないことばかりで信用できなかった。

精神疾患だと決めつけて病院は利益を出している。

そう思うようになっていた。

約一週間前から聞こえてくるもの、それは1パターンだった。

「こっちへいらっしゃい。」

これが一体何を現しているのか。

初老の男のような声は今日も響く。

本当に他の人には聞こえていないのか。

同期の専門学生にきいtめおそんなものは知らないし聞こえないの一点張りだ。

でも確かに聞こえるのだ。

脳内再生されるぼやけた音ではなく、はっきりとした、鮮明な音。

「こっちへいらっしゃい。」

タイミングはいつもまばらで、家にいるときに限ったことではなかった。

気味が悪かったので一度お祓いをしてもらったのだが、やはり声が離れることはなかった。

霊でもなければ一体この声は何なのか。

あの声が聞こえるようになってから俺は眠っている途中で息を引き取った。

天に昇って生前謎だった声の主が分かった。

「こっちへいらっしゃい。」

額に深い皺を幾重にも刻み、にっこりとした顔で軽く手招きする初老の男がいた。

俺はその声に向かって歩く。

近くまで来ると、

「嗚呼、よく来たな。私は君の先祖にあたる者だよ。君の死が近いことを期に私から音声を送れるようになっていたんだ。」

まったく迷惑な爺さんだった。

あの声がいわば死の宣告だったとなると、何も知らずにこっちの世界に来たほうが、残りの人生を不快感なく過ごせたのだろうけれど、あえてこの爺さんは宣告をした。

「キミにとって少々迷惑だったのかもしれないが、人によってはやり残しがあって前世に戻りたいなんて人、よく見かけるんだ。だから宣告をして悔いのない人生を送ってもらおうと・・・。」

「だったらわかりやすく寿命はあとわずかだと言ってあげればいいじゃないですか。」

すると初老の男は顔に影を落とすと、

「そうしてあげたいのは山々なのだが、直球でこの世界の存在を悟られるようなことはしてはならない決まりでな。」

「宣告をしたくらいで悟られる心配はないと思いますけど・・・。」

「残念ながら事例があるんだ。そういうことだから、生前の終盤にあまり気持ちの良い人生を送れなかった人のために様々なサービスやメンタルケアが用意されているから受けていくといい。」

その先、話を聞くとこの世界は生活基盤はすべてロボットが築いており、人は好きなことをして過ごしているのだという。

いわば富の分配が現実化した世界だ。

「こんな世界、本当にあっていいのかよ。」

こうして俺は新しい人生のスタートを切った。

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