「あ、すみません。この席は空いてますか?」
奈穂美はカフェのテーブルに座っている男性に声をかけた。
男性は少し驚いた表情で彼女を見つめ、そしてにっこりと笑った。
「もちろん、どうぞ。他に席も空いてるけど、一緒に座ってもいいよ」
奈穂美は礼儀正しくお礼を言い、男性の隣の席に座った。
彼女は久しぶりの平日の休みに戸惑っていたが、この偶然の出会いに心が軽くなった。
「私、奈穂美って言います。今日は珍しく振替休日を取ったんです。」
男性は自己紹介をすると、慎吾と名乗った。
「フリーランスのグラフィックデザイナーをやってます。普段は平日も休みなんで、こういうカフェでのんびりしてることが多いかな。」
奈穂美は興味津々で質問を続けた。
「フリーランスって自由な生き方ですよね。仕事は大変そうだけど、自分のペースでやっていけるって感じが羨ましいです。」
慎吾は微笑みながら頷いた。
「確かに、自由な生き方は魅力的だと思うけど、でもそれだけじゃないよ。自分のやりたいことに没頭できる反面、不安定な収入や孤独感もあるんだ。でも、それでも自分の道を歩んでいくことが大切なんだと思ってるよ。」
奈穂美は慎吾の言葉にしばらく考え込んだ。
自分の人生について考えるきっかけを与えてくれた彼に感謝の気持ちが湧いてきた。
二人はカフェでの会話を楽しんだ後、街を歩き始めた。
美術館、公園、古本屋など、普段は行けない場所を巡ることで、奈穂美は新たな発見と刺激を感じていた。
しかし、夕方になり奈穂美の職場の上司と偶然遭遇してしまった。上司は奈穂美と慎吾の関係を勘違いし、冷たい視線を向けてきた。
奈穂美は混乱し、慎吾を守るようにしてその場から逃げ出した。
彼女の心はざわつき、不安に満たされていた。
翌日、会社で上司から呼び出された奈穂美は、どんな叱責を受けるのかと覚悟していた。
しかし、予想に反して上司は彼女の仕事ぶりを評価し、リフレッシュの大切さを説いてくれた。
奈穂美は自分の価値観を再確認し、慎吾に連絡を取る決意をした。
次の休日、再び二人は会って話すことになった。
互いの生き方を尊重しつつ、新たな関係の可能性を感じる奈穂美。
彼女は仕事と私生活のバランスを考え直すきっかけを得たのであった。
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