あぁ、なんて先が真っ暗な未来なんだ。
裕福ではないが、かといって路頭に迷っているわけでもない。
そんな私は今の自分をどうにか変えなきゃいけないと思っていた。
だがそれは思うだけで行動に移されることはなかった。
自分の現状を捻じ曲げる手法なんて頭に浮かんでこないからだ。
新しく物事を行う時間も心理的余裕も、度重なる仕事の残業でなくなっていった。
外部から新たな情報を取り入れていないのだから、行動に変化が生まれることもないのは当然だろう。
でもそんな私に転機が訪れた。
「一言に脱網サロン、脱ぐという字に網という字を書いて呼びます。
今のあなたは現状を打破したい、そうお考えになっていらっしゃると存じます。」
なんでこの人は私の思考回路を読めるのだろう。
心理学か何かの類をマスターしているのだろうか。
私はその手の情報には疎く、ただ驚愕し、口をあんぐりと開けていることしかできなかった。
「どうしてそのことを・・・。」
私は聞き返していた。
旨の音が高鳴る。
「それはあなたの身体があらゆる網に囚われ、束縛されいてる状況にあるためです。
私にはその網が見えるのです。」
にわかに信じ難かったが、私は興味本位で問うた。
「それがなくなるとどうなるんですか?」
若い男はにやりと笑うと、言葉を紡いだ。
「今の人生が薔薇色になるでしょう。
あなたの世界観を切り替えて差し上げますよ。
初回ですからタダでいいのでどうぞお試しになってください。」
そういうと薬か何か、粒状のものが入った容器を手に握らされた。
「ご使用後の感想をお待ちしております。」
帰宅してすぐにそれを使った。
本当にこれで私の人生が一変するのだろうか。
翌日出勤すると、私にいつもつっかかってくる上司がいなくなっていた。
あの人がいるといつも仕事が苦痛に感じていたし、作業効率も低下していた。
いなくなってくれてせいせいした。
それだけではない。
私の成果がその日から賞賛されるようになったのだ。
人に認められるってこんなに気持ちが良いものなのか。
承認欲求の強い人の気持ちが今なら少しわかる気がした。
そして再びあの男が、二か月の時を経て私の前に現れた。
「どうですか調子の方は。
商品はお気に召していただけたでしょうか。」
答えは無論決まっている。
「良好よ。
使用を継続するわ。」
男はにやりと笑みを浮かべて、札と薬を交換してくれた。
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