人、動物、もの。
影は光源がある限りどこでも存在する。
光源のある方向によって後方や前方また横まで自由自在、自由奔放に歩き回る。
そんな陰に異変を感じたのはつい最近のことだ。
外出中に歩き疲れて、公園のベンチに腰を掛けようと下方を見た時だった。
目が合った。
「ええ・・!」
「ええ・・!」
互いに驚き大声を上げる。
よく見ると俺の影の中に人がいるようだった。
せっかく腰かけたベンチから腰を上げ移動してみる。
「ついてくる!!」
「そりゃそうだよ。君の影に張り付いているんだから。」
とりあえず人らしきものがいるということは分かったけれど、今見えているのは眼だけ。
「なぁ顔をよく見せてくれよ。」
「嫌です。」
「なんでだよ。こっちだけ顔を知られて何か不公平な感じがするぞ。」
「私は日航がダメなの。あたると消失してしまうわ。」
まるで吸血鬼みたいだな。
だとすると、吸血鬼ならニンニクや十字架もダメな可能性がある。
とにかく夜間までまって、真相を確かめよう。
午後九時。
日没からだいぶ時間がたち、あたりはもう街灯の明かりが灯っている。
「さてそろそろいいだろ?顔くらい見せてくれよ。」
すると影のなかからむくむくと人型をしたものが目前に現れた。
美少女と形容するにふさわしい容姿だった。
色白の彼女は月光と街灯に照らされて、一層その白さが際立っていた。
「本当に吸血鬼みたいだな。」
「私は血液以外にも欲する。肉だって大好きだ。人の影につくことで、その者が口にしたものと同じ味を堪能することができる。」
すごい。
陰にそんな情報が伝導していたなんて・・・・。
いやそんなわけないか。
この影の住人が特殊なのだ。
「ところでさ、なんで俺の影にくっついているんだ?」
「答えないとダメか?」
「うん。」
足をもじもじと動かすと、うつむきながら
「お前の作るご飯が今のところ一番おいしかったからだ。あと家の内外どちらでも活動的だから見てて飽きなかったというか・・・。」
「なるほどなぁ。まぁ俺に正体ばれしちゃったことだし、今度からは陰に寄生しなくても普通に食べられるだろ?」
「それってつまり・・・。」
「ここにいてもいいってこと。ちょうど一人暮らしだったからさ、話し相手ができるのはうれしいし。陰の中じゃやることも制限されるんだろ?」
「いやそうでもないぞ。前の子はゲーム好きでな、寝てる間に影の中でゲームをしていたこともあったな。」
結構自由なんだなと思った。
「というか影の中にものを持ち込めるのか。」
「もちろんだ。」
俺は現実では到底ありえない類の知り合いができたのかもしれないと悟った。
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