ロゴユメ

空に書く文字

ハート 掌編小説

「こういうときって何て言うんだっけ・・・。」

目を泳がせて空中に手を泳がせて考えこむ少女。

これは言葉がうまく出てこないときの彼女の癖だ。

なんというか、何かを思案しているときの、たぶん本人も気づいていないさりげないしぐさがとても可愛らしかった。

それを見るたびに心身が安らいでいくような感じがした。

「優勢な展開。」

それが耳に届くなり、目を見開いてそれだよと喜びに満ちた声を上げた。

空に指で文字を書くように思案するときは何かキーワードとなる漢字が何かが頭に浮かんでいるときだと俺は考えている。

純粋な瞳で考え事をする彼女の姿が好きだった。

片手を顎に当て、もう片方の手は指で空を切っている。

成績は常に優秀ということで知られている。

それが彩という少女だった。

当時の俺は何を思ったのか、彼女にどうやって近づこうかということばかり考えていた。

今思えば普通に友達になれば良いことなのに、対等な立場になることを重視していた。

だが学業の成績は中の上程度、塾に通っている割には低い点数だった。

クラス内では賞賛されているが外に出れば俺の成績は実際、大したことのないことに気づく。

どうやったら、そんなの答えは出ているが自分にとって難関な道のりだった。

小学校の残りを勤勉に過ごし、私立中学校へ、つまり彩と同じ学校に入学することに成功した。

当時同じ学校上がりの人間は俺以外にはいなかった。

みんな公立の中学校へ行ったのだろう。

だから同じ学校、クラスだったらという口実から俺は彼女と友達になれた。

友達になってから俺は彼女の、彩の欠点に気が付いた。

紙面上、つまり試験では得点を取れるほどの能力を持っていても、じっくり考える場のない、いわば日常会話の中ではうまく言葉を絞り出すことができなかったのだ。

そんな彼女と俺は対極的だった。

俺の場合、学習したことはすぐに日常で使えるタイプだ。

だから彩が考え事をするときに言葉を補うのがいつの間にか俺の役割となっていた。

相変わらず成績では彩に勝てないが、欠点を知る俺は常に彼女と炊いといでいられる気がした。

「版木っていうか、模様を彫刻したい板って何て言うんだっけ?」

「模(かたぎ)だよ」

「おーそれそれ。ゆうくんって本当に物知りだよね。」

まぁ博識に近づいているのもきっと彩という存在を追いかけていたからなんだろうと思う。

「小説をよく読むからさ、自分になじみのない言葉でも入ってくるんだよね。」

「児童書とか読んでいるの?」

「小学の頃はそうだったけれど、ストーリーが途中で終わっちゃう、いわば大人の領域だからと続きが描かれないことがあるのを知って、普通、一般向けの小説しか読まなくなったよ。」

「へぇー私は漫画しか読まないから授業で文面ばかりのページが出てきたら、何かと疲れちゃう。」

今はこんな彼女の一面を知れて嬉しかったし、現代の女子の視点も少なからずわかるようになっている。

もう少し彼女との時間を大切にと思ったが、小学でふんばってなかったら今の仲はない。

やっぱりなんだかんだで、彩と一緒にいたいなら、あの時の選択が正しかったんだろうと思う。

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