ロゴユメ

一発ペンチ

紋章 掌編小説

パチン、パチン。

今日もどこからか響く何かを切断するような音。

冬の乾いた空気を音が伝っている。

いったいこの音の主はどこにいるのか。

部屋を見渡すも私の眼は部屋にある家具を捉えるばかりだった。

なんの音なのだろうか。

その真相を確かめるため、部屋のあちこちを音が鳴るたびに探していた。

そのまま二か月が経ち、私は諦めて音が鳴るのはいつものことだからと開き直った。

別にこの現象が起きているからといって私に危害が加わっているわけではなかったから、霊媒師に相談したこともない。

そして退社後に家に帰宅した時だった。

室内の電気をつけて私は唖然とした。

パチン、パチン。

あの音の主が私の目に映ったのである。

黒く、袖や裾がガタガタ、ギザギザしている服を身に纏い、ペンチをもって何もないところに向けて力を入れている。

両手で力を籠めると、パチンという乾いた音が、あの聞きなれた音がしている。

「あんたの仕業だったのね。」

彼の後方から話しかけると、骸骨の顔がこちらを覗いた。

私の姿を捉えると、後ずさりをしてひゃっと間抜けな声を上げた。

「うちに勝手に入っていったい何をしているのかしら。ずっと音は聞こえていたから、結構前からやっているわよね。」

「まさか私の音が聞き取れるなんて。視認できるのは私が油断していたからってだけで・・・・。まぁとにかく怪しいことは何もしていない。まずは話を聞いてくれ。」

私が彼の発言にこくりとうなずくと話を切り出した。

「私は縁の死神。」

「縁の死神?なにそれ。」

「通常の死神が命を奪うのに対して、私たちは縁を奪う。もちろん対象が死亡もしくは疎遠になった場合においてのみ縁を強制的に断ち切り、我々がその縁を回収するといった感じです。」

「つまり縁を断ち切った時の音があのパチンという音なのね。」

「そうです、この・・・。」

自分の服の内ポケットに手を突っ込み、あるものを取り出す。

「このペンチを使ってパチンと断ち切ります。」

謎は解けたが、縁を餌いする死神というものは初めて見た。

「人の縁ってさおいしいの?」

頭上に疑問符を浮かべる死神。

今絶対間抜けな質問をしてしまった。

恥ずかしくて思わず顔が熱くなった。

それを見かねて、死神はいたって真面目に返答してくれた。

「もしかするとおいしいのかもしれませんが、基本的に吸収するだけですので。まぁ人でいう食事をするみたいなものですね。」

なるほど。

完全に外れた質問を投げかけたわけではなくて、少々安堵しつつ私は死神の生態や日常についてもっと知りたくなった。

「そういえばなんでペンチなの?線が少し硬いとか?」

「硬いですよ。両手でこう強く押し込まないと断ち切れませんから。ペンチを選んでいる理由は特にありません。初めに支給されたものがこれだったというだけです。」

なんだ理由はないのか。

死神とペンチって斬新な組み合わせだと思ったから、何か訳ありなのかとみていたけれどそうじゃないんだね。

意味はないということは、現実的でよくある感じで共感を持てるところもあるけれど、あったらあったでまた別の魅力ができて面白いかなと思った。

とりあえず今回の一件は死神がペンチを使っていただけだった。

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