高校に通うようになり、給食から弁当に移行した俺は、母の作った弁当を持って登校していた。
運動部に所属していたから、朝練もあるため毎日7時には学校に出向いていた。
今よくよく考えてみればそんな早朝から母は身体を起こし、朝食、昼食を作ってくれていたんだ。
パートでの仕事とはいえ、少々ハードな勤務内容だと思っていた。
帰りは17時と俺と同じくらいの時間帯だった。
そんなサイクルの中、俺は母の作る弁当にいつも力をもらっていた。
野菜と肉はだいたい半々で入っていっていて、バランスが考慮されていたそれは俺の体を健康体に保ち続けることに寄与していた。
母の弁当のクオリティはいつも高いことを自負していたが、最近の完成度は特に高いように感じていた。
「キャラ弁か。お前の家、弁当に結構力を注いでるよな。」
隣の席の田口が瞳を輝かせながら弁当に目をやっていた。
俺もその話題に乗っかるように母の手作り弁当を称賛した。
「すげーだろ。最近になってクオリティが倍増したからな。食べる側の俺が見てもかなり力が入っていることがわかるぜ。」
「なぁ味はどうなんだ?キャラ弁って色に気を使うから味とか野菜と肉とのバランスとかとるの大変そうだし。」
確かに言われてみればそうだ。
でも見るからに野菜多めだから問題はないだろう。
食紅で作られたキャラクターの髪はショートボブで型どられていた。
母さんって俺の好みを知っててやっているのか…。
弁当に描かれた少女の髪を一口パクリと食べてみる。
これは、かまぼこだな。
「味は普通にいいぞ。」
「まじか、どれどれ…。」
勝手に人の弁当を取るなと一言もの言いたげに彼を一瞥したが言葉はつっかえて出てこなかった。
唐揚げを口にしたクラスメイトは大層喜んで弁当を称賛した。
そしてその旨をクラス中に自慢し始めた。
そうか、そこまでこの弁当は価値があるものだったのかと改めて思った。
そのことを母に話すと右手で軽くガッツポーズを作ると嬉しそうな顔をこちらに向け、また明日も楽しみにしててねと言った。
その時母はどこか病弱のような、力がない言葉を発していた。
そして母のいう明日は来ることがなかった。
前日のキャラ弁をもって母の弁当は俺の日常から姿を消したのだ。
「明日もっていったじゃないか、どうして…。」
父から母が俺宛に書き残したという手紙を渡された。
中身を読むとあの弁当は強く思い出に焼き付くように、母がいたことを忘れないようにするためのものだと知った。
母は寂しがり屋だったのかはわからない。
でもあの日の弁当は高校在学中はいつも思い起こすほど強烈な完成度だった。
そして美味しかった。
もう一度食べたいというわがままはこの世が許してくれないだろう。
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