「困ったことがあったら私の名前を呼んでいいから。」
遠い昔、そんなことを言われていた記憶がある。
死神か天使かそんな類の人ではない異質な感じのオーラが漂っていた。
今は記憶に鍵かかかっているかのようにその者の名称を思い出すことができない。
名前がわからないから呼ぶこともできないから、困ったことがあっても自己解決しなければならない。
「嗚呼、こんな時あの人がいればなぁ。」
人と定義するのは果たして正しいのかといえば、間違っているかと思うが他に良さそうな言葉が思いつかないので私はそう呼んでいる。
そんな葛藤の毎日から月日は経ち私は中学生になった。
勉強も小学校の時と比較すると少しだけ難しくなり、時より勉学で詰まることがあったが、あの人のことはすっかりと忘れていたから、地道な努力で這い上がって行った。
あの日が訪れるまでは本当に忘却していたのだ。
中学一年生の修了式が終わり、帰路についた私の背後からものすごい勢いで人が寄ってくる感覚があった。
そして私は刺された。
感覚的にナイフだろうか。
冬季だから鉄の冷たさは一層際立っていたと思う。
「あ、ああ…。」
せめて誰の犯行なのか確かめようとしたが、背から血が抜け落ちて力が入らない。
鈍痛が私を襲う。
「眠たいな、寒いな。」
私はそのまま意識を失った。
次に目を覚ましたときには家のベッドにいた。
自分の手で刺された跡を追うが傷はない。
「完治している?」
「やっと目が覚めたね。私のことすっかり忘れちゃってたでしょ?いつでも見守っているって言ったのに…。あなたが小学生の頃、私のことを忘れていたいと言ったものね。」
目線を上げるとそこには一人の少女がいた。
見てすぐに歳は私と同じくらいだとわかった。
「彩、彩なのね?」
「やっと思い出してくれた。」
「私…どうして今まで彩のことを忘れていたんだろう。小学の途中までずっと一緒にいたのに。」
「何でも願いを叶えると言っておきながら君の願いを一度だけ叶えられなかったことがあったんだ…。」
そのことが耳に入ると途端に私は涙が溢れてきた。
「お父さんお母さん…。」
「どう、事故で亡くなって2人を蘇生できなかった。当時幼かった君は強く私を否定した。もう会いたくないって願ったんだ。」
「ごめんなさい。」
「いいんだ幼少だったんだから。」
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