パチパチパチ。 ゆらゆらと温かい炎が、木々を刺激しながらパチパチと音を立てる。
その炎を見ていると何かと引き込まれるように、人はまどろんでいくのだ。
遠のく意識の中で、目の前の暖炉の火が、薪に灯された炎が、めらめらと燃え盛り、私を心と体の両方を温かく包み込んでゆく。
いつも見る夢もまた、暖炉の前にいて、ただ火を前にして椅子に腰かけている私がいるのだ。
ただ夢じゃないと認識させる何かがそこにあった。
その何かとは、他界したはずの夫の姿だった。
せっせと薪を入れて、
「今日は結構冷え込むね、たくさん薪を用意してあるから、君が眠りにつくまで、しっかりと見張ってるよ」
と夫が優しく語り掛けるのだった。
懐かしい夫の姿。 夢の中でしか会えない夫の姿。
ああ、愛おしい人よ。
どうか眠りの中に私を長居させてはくれないだろうか。
そう考えていると、
「どうしたんだい?」
と私のほうを振り返った夫が首をかしげていた。
そして近づいて、私の涙袋のところを指で拭う。
ああ、私は泣いているのだ。
決して悲しいという想いだけではない。
儚さと、安堵の両方の感情がこみあげてきて、懐かしい思い出とともに涙という形として、私の中から零れ落ちたのだった。
「何か悲しいことでもあったのかい?」
そう質問するから、私は正直に夫に告げた 。
「夢の中だけではあなたと一緒にいられるから、つい嬉しくて」
「何を言っているんだい?まだ君は眠っていないじゃないか」
本当に現実と錯覚するほどに、まるで人のような人間像が、偶像が私の脳内が構築していく。
だから最初夢見たときは、本当に彼が帰ってきたのだと思った。
だけれど夢から覚めて、ものすごく虚しい気分に襲われていったのだった。
なんどあなたに会いたいと思ったことか。
私だけを見て、私だけに最後まで恋をして。
本当に一般的な男性の象が似合わないくらいだった。
だってそうでしょ?
普通の男性は浮気するのがスタンダードってイメージだし。
でも私の夫は違った。
最初で最期の大切な夫。
そんな最愛の夫が夢に現れるようになってから49日目。
もしかしたら今日が最後なのかもしれないと思うと、また涙があふれてくる。
そっと夢の中の夫が涙をぬぐうものだから、もっと涙があふれてくる。
いっそのことこのまま永眠できたら・・・。
幸せなまま私は眠りたい。
そう思っていたら、目覚めてしまった。
「ああ、夢から覚めてしまったのね・・・。」
私は唖然としていて、その日に何をしたのか思いだせないくらいだった。
気づけば夜になり、眠りにつく。
しかし夢は見ることなく朝が来た。
「もう、お別れなのね」
そう私は悟った。
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