ロゴユメ

とり残された猫

ショートショート 私色日記Ⅲ

今の主様の膝の上で寝る。

これが一番の私服だ。

ごろごろと声を出していると、主様は僕の身体をやさしく撫でてくれる。

とてもうれしい。

こんな日がずっと続けばいいななんて思っていた。

だけれど、ある日主様は家に帰ってこなかった。

暗い寝室のなかで、暖房だけが光を放っている。

日が暮れても主様は帰ってこなかった。

そして次の日になって知らない人がうちに入ってきた。

どうやら主様の親族らしい。

妹らしいけれど、僕の姿を見るなり、安心した様子でこちらに向かってきて

「よかった、ちゃんと生きてる」

と言って、僕の身体を持ち上げて、ゆっくりと抱き上げて、背中をさする。

柔らかく温かい手は、主様に少し似ていて、やっぱり親族なんだと痛感させられた。

だからこそ、少し気を許せる気がしていた。

さっきまであった緊張感もほぐれて、僕は彼女に身をゆだねていた。

そういえば主様はどこへ行ったのだろうか?

主様の机に飛び乗り、にゃーと泣いて見せる。

その様子を見かねた妹の目からは涙がこぼれでいてた。

「にゃーちゃんに伝えないといけないことがあるの。あなたの主様のみこと姉さんはね、亡くなったの。もう帰ってくることはない」

人間の言葉はあまり詳しくはなかったが、なんとなく理解はできた。

主様はもう戻ってこないのだと悟ったとき、何とも言えない虚しさに襲われた。

そのあと主様の妹に引き取られた僕は、特に不自由のない生活をしていたのだけれど、どこか心にぽっかりと穴が開いていた。

二人であの空間で一緒に分かち合った時間、一緒に食事して寝るまでの間の時間。

何気ない日常がとてもかけがえのないものになっていく。

この思い出だけは、この記憶だけは僕のものなんだ。

誰にも渡せない、僕だけのモノなんだ。

ある日僕は夢を見た。

主様とねこじゃらしで遊ぶ夢。

主様がねこじゃらしをぶんぶんと僕の目の前で振って、僕の気をひきつけていく。

僕は無我夢中で猫じゃらしに食いついていく。

その時間がたまらなく楽しくて、つい夢中になってしまって、目が覚めて夢だと痛感したときには、また虚無感に襲われるのだった。

さみしい。 満たされぬ思いを背負いながら、今日も取り残されたものとして、僕はまっすぐに生きていくしかないんだと考えながら、一日を過ごしていく。

日向ぼっこしながらまどろんでいると、主様の声がたびたび聞こえるような気がして、耳をぴくぴくさせている。

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私色日記Ⅲ
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