長い間祀られてきた山の神の存在も現在は言い伝え程度となり、誰も神を信じなくなった。
誰も山に登りに来なくなったというのもある。
家やビルは平地に立ち並び、我からすれば下界のモノたちは、自己精神論を掲げ、すべての選択は自分の選択の結果であると告げるようになった。
いわゆる自己責任理論ともいう。
神のせいにする人もいなくなったことは嬉しいことだけれど、神のおかげでといってくれる信者たちも大きく数を減らした。
いや、もうこの世にはいないのかもしれない。
そう思っていた時だった。
二人組だったか。
若い男子二人がわが領域である山へと足を踏み入れたのだった。
久しぶりの人の香り。
話し声。
ああ、懐かしき情景が脳内を反芻する。
若人ふたりは、どうやら写真が趣味らしく、今の時代はスマホで写真を撮るのが一般的といわれているのにもかかわらず、一眼レフのカメラを方にぶら下げて、二人で写真を撮っていた。
「これは貴重な資料だ、なぁ大樹、お前もそう思うだろ?」
「ああそうだな。こんな神秘的な場所、人の血が通っていないような場所はなかなか目にかかれない、たくさん写真に残していこう!」
あまりにも楽しそうだから、わしも写真に写ってやりたくなった。
「おい!」
「うぁああああああ!」
「どうした?」
驚いた大樹という男子が、もう一人の男子に話をかける。
「前・・・・。」
「ようやく気付いたか」
わしはため息をつくと、若人二人の前で自己紹介した。
「わしはこの地に昔から住んでいる山の神じゃ。まぁわしといっているけれど、メスの部類だけれどな」
一人が眼鏡をくいくいさせると、改まって、自己紹介してきた。
「俺は、大樹、こっちは裕也だ。神の伝承がばあちゃん家に残ってたから、もしかしたらまだここに来れば会えるんじゃないかと思っていたけれど、まさか本当になるとは・・・。」
「なんだ?わしのことを探していたのか?」
若人たちはうんうんと大きくうなずく。
よく見れば昔にこの容姿どこかで見たような・・・。
いやしかし、男ではないしなぁ。
まさかな 。
「おぬしの、大樹のばあさんはもしかして、静江とか言ったりしないか?」
そういうと、大樹は目を丸くして、そうだよと答えた。
「昔は静江と仲良く写真を撮っていたものだ。今ほどきれいな出来ではなかったけれど、懐かしい。あの頃のことを憶えていたのか」
「そうだろうね。いまだにアルバムに入れて保管してあるもの。でも、その写真にはおばあちゃんしか映って無くて・・・。」
神はやはり視認はできてもカメラには映らぬか。
「でもまぁ、憶えていてくれたことだけは非常にうれしい。きっともう、誰もここには来ないと思っていたからな」
涙が零れ落ちた。
「泣いているの?」
「うれし涙じゃよ。ほれ、お前たちも写真を撮ろうじゃないか、記念にな」
映した写真には確かにわしは映っていないが、この子たちの心にはわしは映り続けるのだろうと信じて・・・。
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