みんな、同期の人たちと同じように制服を着て学校へ通いたかった。
そう私は高校入学初日から休学し、入院している。
退院の目処は立っていない。
若くして癌を患ったこと、その事実を恨めしく思う。
私がこうしてベッドの横になっている頃、みんなは人生をエンジョイしているのだろう。
空虚、いつも私の頭の中はそうだった。
とにかく真っ白なのだ。
寝れば必ず目覚めの時が来る。
起きてしまえば特にやることがなかった。
備え付けの本棚にある本はもう何度も読み返した。
そう、この空間のにはもう飽きてしまったのだ。
何か新しい刺激が欲しかった。
外出でもしてみたい。
癌だからもう先は長くないのだから、一度くらいそとに出てみたい。
おめかしもしてみたい。
化粧はなんとなくやってみたかった。
人の見かけを若くも老いてもどちらでいても両者を再現できる魔法の粉末。
そんな顔を仮面で覆い尽くすように、私の癌も消失してしまえばいいのに。
病棟の一室で孤独を感じた時、この世界に不幸な人間で自分だけなんじゃないかと錯覚した。
無論そんなことはなくて、私よりも重い病気の人は多数いた。
それでもなんとなく考えてしまうのだ。
室内にあるカレンダーに目をやる。
嗚呼、今日は母親が見舞いにくる日だったな。
深く息を吸って大きく吐く。
少しは落ち着いた。
私の後が短いことは母親も知っていることだったから、私が何か欲しいといえば買い与えてくれる。
母親が来て家内の近況報告と私から欲しいものを聞いた。
私はいつもと変わらず、癖のようにケーキが食べたいと言った。
「ケーキ本当に好きよね。最近ハマったの?」
私はコクリと頷いた。
実際のところ、糖質をとることで脳内を幸福で、それも一時的に満たしていただけに過ぎない。
もしかすると食べ物なら何でもよかったのかもしれない。
食べてもあまり腹に重圧のないケーキを私は選択していた。
母親が去った後、再び室内み静寂が訪れる。
私はとにかく文章を読むスピードは遅かったから、読み終わるのにはそれなりの時間を要する。
単行本だから普通の人なら3日から4日程度で読了するレベルだと思う。
でもその私の欠点がこの場においては利点となっていた。
時間を無駄にすることがないからだ。
読破スピードが遅いのは本をかつて読んでこなかったのが要因ではないかとみているので、読む量を重ねればきっと1日に一冊も夢ではないかもしれない。
漫画は幼少から読んできたが小説には一度たりとも手を出したことがなかったので、母親から届くのが楽しみだ。
二冊の小説とケーキが届いた。
あと紅茶があれば最高なもだが、その点は我慢することにした。
ふわふわのスポンジと生クリームが舌を楽しませる。
苺は甘酸っぱくて、脳が開花したような感じがした。
届けられた小説は恋愛ものとミステリーものだった。
どうみても母親の好みそのものだった。
実家にはよくこの手のジャンルが置かれていたことを覚えている。
私は本を手に取り読み始めた。
読み続けよう、楽しみ続けよう、終わりの時まで…。
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