いつも先陣を切っている姉の姿があった。
当時は怪異の存在なんて知らなかったから、姉の背を追って廃墟に足を運んでいた。
姉の判断基準はよくわからなかったが、姉にとってめぼしいものがあれば次々に撮影していった。
そこのところは自分はまだ物心がつく前だったので恐怖という感情がなかった。
きっと今行けば足がすくんでその場に立ちすくしてしまうだろう。
僕と3つ離れている姉は物心はついていたと思う。
それでいてたった二人でいても怖がる素振り一つ見せない気丈な人だった。
そんな姉が恐怖を訴えるようになったのは、つい先日のことだった。
僕の住む住居の隣にそびえたつマンションの上階に住んでいる。
電話越しにすぐうちに来てほしいと言われた。
その声は震えていて、姉らしさが欠如していた。
怖いものが苦手な俺は恐る恐る姉の部屋まで来て、そしてチャイムを鳴らした。
すると目の下にクマができた姉が顔を出した。
部屋内に促されると、俺は近くのソファに腰かける。
「安かったからこの場所を借りたんだけどさ、まさかの事故物件だったらしいんだよ。」
「そう思った根拠は?」
「怪奇現象が起こります。」
姉なりの冗談かと思ったが、表情を伺うとどうも本当らしかった。
「昔は自分から廃墟に出向くくらいだったのに、いざ本物に出くわすと腰抜かすんだね。」
「あの時はどうかしてたのよ。探求心旺盛というか、ホラー好きなんてほんと変わり者よね。」
どうやら今の姉はホラー関係については一切無援で生きているはずだったらしいが、運悪く本物の怪異に取りつかれてしまったらしい。
「怖いんだったらさ、今日うちにでも泊まる?」
それを聞くなり姉は目を輝かせ、よろしく頼むと言った。
姉を部屋に連れてきた翌日、俺にも怪奇現象が起こった。
それも部屋に姉がいるときに限ってだ。
さっきテーブルに置いたはずの煙草がトイレに行って戻ってきたときには無くなっていたのである。
姉は喫煙者ではないし、隠してもいないと言っていたから、きっと霊の仕業だと確信した。
今回の件は恐らく場所ではなく、姉に直接取りついているタイプっぽかった。
だから俺は寺に姉を連れていき、お祓いをしてもらうことにした。
お祓いを終えて姉は随分肩が軽くなったと言った。
心理的問題も加味していたとは思うが、幼少のころに例とともに、もしかすると育っていたのかもしれない。
「ねぇこれから気晴らしに新設されたスポーツセンターにでも行ってみようか。」
「何それ何をする場所なの?」
「二時間で様々なスポーツを体験できる施設。一人じゃ心細いから入れなかったんだけれど、今二人じゃん?これなら入るときの気まずさはなくなるかなって。」
お祓い以来昔の積極的な姉へと戻っていた。
その前向きでいつも俺を引っ張るような姿はまさに俺の姉だった。
「まぁ今後行く機会もないだろうから、行ってみるか。」
「よっしゃー。気合入ってきたよ。バスケでフリースロー何回連続で入るか勝負!」
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