紙一重の私

ドッペルゲンガーという言葉をご存知だろうか。

容姿が自分とそっくりな人間のことだ。

だがそれには欠点がある。

自分の身代わりにはならない。

内面的にみればやはり大きく差異があって、人となりは不一致であるのだ。

だが前代未聞といったところか、そんな常識を覆すかのような事件が起こった。

朝起きると私より早く、いつも私が着席しているはずの場所で私が食事をしていた。

これだけでも驚きだ。

ドッペルゲンガーいわば、自分の容姿のコピーを目の当たりにするだけでもうちから込み上げる不快感は強烈だ。

どうして私なのか。

他の人じゃダメだったのだろうか。

選ばれたことによる嫌な思いが私の中から吹きあふれる。

あいつは誰なんだ。

なんで私の席で当然のように食事をとっているのか。

代役を望んだこともない。

多数のなぜという言葉が脳内で嵐を起こす。

本来ドッペルゲンガーと当人は出会ってはならないという迷信があるが今はそんなことより真実が知りたいという欲求が押して、冷静さを欠いていた。

奴が食事を終えて部屋を出て廊下に来たところを見計らって私はそいつの肩を掴んで少し強引にこちらに振り向かせる。

「ねぇあなたは誰?どうして私の真似なんかしているの?」

虚な瞳の私のコピーはこちらに顔を向けると弱々しい声で言った。

「私はあなたそのもの。あなたが不安定だからそれを修繕するように私が生み出された。」

どういうことだろう。

私が彼女を生み出した。

自分の内に聞いてみても回答を見出すことはできなかった、

「難解なことは言ってないよ。私がいるのは発散代行のため。私が存在している限り、あなたの莫大なストレスをこちらで処理しているの。」

「最近劣等感や、不安がなくなったのはそのためね。でも私はあなたがいることで不快と思ってしまった。誰でも断りなくもう1人の自分が現れたら不愉快なんじゃないかな。」

自分の率直な想いを向けると、彼女は右手で私の左手を取り、指を絡ませて握った。

「なら戻そうか?不安になるのはあなた自身。私がいなくなれば発散を自分から進んで行わなければいけなくなる。非行に走っても責任はあなたにしかない。」

背に冷たい汗がツーっと流れていった。

私が動揺しているというの?

自分を目前にしてうんと頷けなかった。

判断することが怖かったからだ。

もし本当にこいつを取り込めば元の私になるのなら…。

「迷っているんですね。時間も経てば紙一重というほど私とあなたはそっくりになります。続行することをお勧めしますよ。莫大な負の感情を抱えたあなたが、有意義に過ごせますように。」

そう言い残すと彼女はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

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